No. 422 性遍歴 / 松本侑子 著 を読みました。
誰も教えてくれない。だからといって、誰かに教えてもらいたいわけでもない。
自分の欲望に耳を傾け、試行錯誤を繰り返す。五つの性の物語。
- 「性遍歴」
- 表題作は、アンソロジー「密の眠り」(廣済堂出版2000/04)
- に収録されていたものの再録です。この作品が面白かったので文庫を買ったわけです>僕。
やっぱり、健康美が伝わってきます。主人公の女性が羨ましいです。別れた男の描き方も、彼女の健康が反映されていると思いました。別れた恋人の話をすると、どうしても相手の欠点を挙げて同情を買いたくなる(または、自分の正当性を主張したくなる)ものだと思っていましたが、順調に家庭を築いた僕の友人を思い起こすと、この短編の主人公のように、客観的に「うまくいかなかったなぁ」と処理できるようですね。高校時代に関わった男との逸話が秀逸です。 - 「女装夢変化」
- 「贅沢だなぁ」と思いました。作品中には、女装嗜好の男性とホモセクシャルの区別を主人公が語る場面もあるのですが、いずれにしろ両方の性を楽しめるなんて「贅沢だなぁ」と思うのです。片方の性でさえ……。
- 「初恋」
- 生まれたときから性の区別を徹底的に排除した近未来社会に生きる子どもの初恋。相手が男か女か解らない彼の初恋。
今の世の中には、「どこから見ても男」「どこから見ても女」解りやすい人がいる一方、「どっちだろう?」わかりにくい人もいますね。この作品の世界では、みんなが解らないようにして暮らしています。つまり、恋愛の対象を異性に限らないわけで、そんな社会での甘酸っぱい初恋。 - 「ナツメの実」
- 初恋の効用の一つに、親の愛情から独立することがあると思います。この短編では、うまく初恋を迎えられなかった同級生と、彼女の初恋につきあえなかった主人公の述懐が描かれています。
- 「新しい扉」
- 双方の思惑がうまい具合に一致し、成立した恋愛の様式美が感じられました。
2004年 7月18日
No. 422
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