受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 681 ウクライナ戦争の200日 / 小泉悠 著 を読みました。

今回の戦争によって、米国一極のもとに世界が安定しているのではなく、複数の大国がそれぞれ異なる世界観を掲げて「競争的に共存する」世界に変化した  

ロシアのウクライナ侵攻は、ポスト冷戦時代の終焉を告げる歴史的な転換点となった。
「理解できない世界秩序への反逆」の続発を予感させる今後の世紀を、複雑な世界を私たちはどう生きるのか。
戦争が日常化する今、思考停止に陥らないために。

気鋭のロシア軍事・安全保障専門家が、評論家、作家、映画監督らと「ウクライナ戦争200日」を多角的に見つめ直す待望の対談集。
  mazonの商品情報を転記  
200日=2022年8月までの状況を見ながらの対談集です。最新情報ではありません。
しかしながら、僕が書籍から得たいのは最新情報ではありません。状況を理解するための基礎知識、というかベースとなる下地です。そういう意味では、各国の民情、外交的指向性の特徴、特に日本にいて「ふつうの人はこう思うよね。」と言うのが別の国では全然違う「こう考えるよね」というのがわかった感覚です。妥当なチョイスでした。

 

例えば第二章、砂川文次との対談では、平素目や耳にするマスコミの報道と、現場のギャップが伺い知れた気がします。
第三、六章の高橋杉雄との対談からは技術的な内容を、
第四章の片渕須直との対談では、戦争当事国の市民の感覚に思いを馳せる事ができたと思います。
白眉は最後のドイツ通”マライ・メントライン”(Marei Mentlein)、中国通”安田峰俊”を交えた鼎談。
ロシアないし、中国の市民の感覚を想像するのに役立ったと思います。

 

そして僕は、第二次世界大戦中の日本を連想しました。
生活が苦しくなったのは、鬼畜米英のせいだし、
戦争はやむを得ないと報道されているし、
協力するのが、良識ある市民の務めだし。
外国から非難されているが、それはお互い様。どの国も自国の正義を主張するものだよね、と理解するに留まるはずです。

 

そう。戦争に突き進んでいるときの国民は、おおむね「致し方ない」とあきらめています。外国からの情報に耳を貸すことは期待できません。

 

なるほど、ロシアや中国に訴えるのならば、知恵をひねって工夫をせねばならぬ、と理解しました。

 

主題ではないのですが、”マライ・メントライン”の指摘が印象的でした。
ウクライナ戦争への反対デモをする若者のマインドです。
「戦争よりも、環境保護の方が大事だ」と
「『正しい』ことを訴えればみんなが気づいてくれるだろう」
とピュア系マインドで動いているのではなかろうか、と。

 

それは、ロシアや中国の国民とは全く異なる信条。
本書の指摘の中で、これが強烈に印象的でした。
また、僕たち日本人も、どちらかというとドイツ寄りだな。と思いました。
十七条の憲法にも
「はなはだしい悪人は希。よく教えれば、従う。」
とあるように、相手の人格を認めずに、自分の常識を押しつけようとするところがあるよな。と。
そんな上から目線で「教えてやろう。」と言う人と付き合いたいと思うか?
と、自分のこととして考えたときに「ともだちになりたくない。」と思うに決まっていることに思い当たりました。
だいぶ脱線しましたのでここまで。

 

面白い一冊でした。

 

僕からの補足です。本書を読み終えると、たしかに「ロシア」も「中国」も、それなりに自国の信条に従って動いているのだから、尊重しないと。と思う側面があります。
では、自分の国に、ロシアのように、または中国のような政治体制を許して良いか?と考えるとそれは(自分のために)避けるべきであると思います。
それはなぜか? タイミング良く、偶然丁度良い文章を見つけましたのでご紹介します。
ロシア内部からエカテリーナ・シュリマンの講義(のnoteに掲載された翻訳)
2023年 3月20日
No. 681