No. 640 祝祭と予感 / 恩田陸 著 を読みました。
大好きな仲間たちの、知らなかった秘密。
入賞者ツアーのはざま亜夜とマサルとなぜか塵が二人のピアノの恩師・綿貫先生の墓参りをする「祝祭と掃苔」。芳ヶ江国際ピアノコンクールの審査員ナサニエルと三枝子の若き日の衝撃的な出会いとその後を描いた「獅子と芍薬」。作曲家・菱沼忠明が課題曲「春と修羅」を作るきっかけになった忘れ得ぬ教え子の追憶「袈裟と鞦韆」。ジュリアード音楽院プレ・カレッジ時代のマサルの意外な一面「竪琴と葦笛」。楽器選びに悩むヴィオラ奏者・奏へ天啓を伝える「鈴蘭と階段」。巨匠ホフマンが幼い塵と初めて出会った永遠のような瞬間「伝説と予感」。全6編。帯を転記
のスピンオフ短編集。
2019年10月4日ロードショーの映画
に合わせて刊行されました。
本編に引き続き「文章を以て、音楽の魅力を語る」珠玉の六編です。
- 祝祭と掃苔
- 映画では、キタキマユが演じた亜夜の母親が兼ねた、マサルと亜夜のピアノの先生。
- 彼女の墓参りを、風間塵も加えた三人で。
- 獅子と芍薬
- 映画では助演女優賞にノミネートされている斉藤由貴が演じた嵯峨三枝子、とナサニエル・シルヴァーバーグのなれそめ(原作では二人はかつて夫婦)
- 袈裟と鞦韆
- 映画では「永訣の朝」で説明された宮沢賢治の詩集「春の修羅」
- を課題曲として作曲した菱沼忠明の作曲に至る経緯を、ホントの春の修羅「おれはひとりの修羅なのだ」で語ります。
- 竪琴と葦笛
- 映画ではマサルに対して威厳を見せていたナサニエル・シルヴァーバーグ。
- マサルが師事する経緯を描いています。
- 鈴蘭と階段
- 映画では明石に集約されて省略されてしまった亜夜の音楽を通じた友であり、サポーターの奏。
- 亜夜の入賞を切っ掛けにヴィオラに転向した後の、天啓による楽器選びが語られます。
- 「料理と似ている」と、音楽の一過性を解説しているのも読みどころだと思いました。(料理は食べれば無くなる。音楽は演奏が終わると終わる。)
- また、風間塵が「一緒に音楽を外に連れ出せる人を見つけなさい」と師匠に遺言されたのを、亜夜を見つけて実行していることがわかり、嬉しくなりました。
- 伝説と予感
- 風間塵が伝説のマエストロ「ユウジ・フォン=ホフマン」に見いだされた瞬間を描きます。
映画化に際して公開された恩田陸と監督とのインタビューで
「(鍵盤の間にカミソリを仕込まれるとか)わかりやすい悪役を登場させれば、物語は簡単なんだけれど、この作品では用いなかった。」
と言うような意味のことを言っていますが、
実際の天才は、ハッタリを用いる必用が無いので、ライバルに対しても親切であり、友情を築くことができる。
映画ではプロコン3
でオケとの合わせに苦労するマサルを助けた亜夜との連弾のシーンがハイライトでした。
そんな等身大の天才達のリアルが補強される珠玉のスピンオフ短編集です。
2019年12月19日
No. 640
No. 640