No. 442 ホテル カクタス / 江國香織 著 を読みました。
街はずれにある古びた石造りのアパート「ホテル カクタス」。その三階の一角には帽子が、二階の一角にはきゅうりが、一階の一角には数字の2が住んでいました。三人はあるきっかけで友達になり、可笑しくてすこし哀しい日々が、穏やかに過ぎて行きました……。メルヘンのスタイルで「日常」を描き、生きることの本質をみつめた、不思議でせつない物語。画家・佐々木敦子との傑作コラボレーション。
カバーの背表紙を転記
「帽子」と「きゅうり」と「数字の2」。擬人化された三人がそれぞれのフロアに部屋を借りているアパートは(アパートなのに)「ホテル カクタス」。
三人はそれぞれ独身の男性で、つまり独り暮らしです。
都市生活者の独り暮らしと言えば、現代は、個人用の映像機器や、通信機器が発達しているので、ご近所さんとの付き合いは皆無と言う場合が多いのではないかと思います。そう言う僕もアパートに独り暮らしで、階段や中庭で同じアパートの住人に顔を合わせば、会釈程度の挨拶はするものの、一緒に遊びに行ったりしません。と言うのは話の流れから出た嘘でm(v_v)m、実際の僕のアパート住人は仲良しで、近所のお花畑に四家族で連れ立って散歩に行ったり、階段の下にゴザを敷いて宴会をしたりします(笑)そこで、宅配ピザを注文したら、配達に来たピザ屋の兄ちゃんが、随分と意表を突かれて困惑していたのが申し訳ございませんでしたm(v_v)m
僕が、この小説を読んで思い出したのは、就職した当初、一ヶ月の製造実習でした。地方の工場にバスで連れて行かれた実習は、ラインで働くおじさんやお姉さんたちと一緒に、ネジを締めたり、ベルトコンベアーに乗って流れて来るキャッシュレジスターを箱詰めしたり。残業は無く、定時で仕事は終わり。二人一部屋の寮へ戻ってくるだけの生活でした。就職したばかりですから、携帯電話も、自家用車も持っていません。三食を工場の食堂で済ますので、食べ物には困りませんでしたが、とにかく暇でした。もてあました暇を、独りで消化するのでは無くて、適当に声を掛けてつぶしていました。夕方に、同期入社の仲間と飲みに行ったり、週末は街に映画を見に行ったり。そんな百年変わらないような生活をしていた当時を思い出しました。
ホテルカクタスで、帽子ときゅうりと数字の2は、別々の仕事を持ち、それぞれアパートに帰って来る生活をしています。でも、ふとした切っ掛けで仲良しになってからは、一緒に暇つぶしをします。
その暇つぶしがこの物語です。仕事や生活や、育った家庭環境も全く異なる彼らが過ごす日々は、価値観が異なる彼らでありながらも、暖かく、人間味が溢れていました。
読み終えた時に僕が気が付いたのは、いつまでも続くと思っていた心地よさが物語とともに終わってしまったことを残念に感じている自分でした。
集合住宅に住む人はお互いに赤の他人同士。下手に親しくなって、馴れ馴れしくされるのは怖い気もします。つまり、危険を伴うので、ホテルカクタスの三人のような絶妙な関係を築くのは、とても難しいのです。そう言う意味でも、この三人が過ごした日々はフェアリーテイルでした。
2005年5月6日
No. 442