No. 433 泳ぐのに、安全でも適切でもありません/江國香織著 を読みました。
安全でも適切でもない人生のなかで、愛にだけは躊躇わないあるいは躊躇わなかった女たち。愛することと幸福とは同義では決してなく、彼女たちの潔さは、泣きたくなるほどせつない。恋愛の高揚感、男が去った後の寂寥、愛と生活との断層、嫉妬の苦しみ……。愛することをとおして人生を切りとった、心にしみとおる傑作短篇集。第15回山本周五郎賞受賞作。カバーの背表紙を転記
飛び込めば、溺れるかもしれない危険な愛。遊泳禁止の海で溺れれば溺死ですが、危険な愛に溺れると……、
- 泳ぐのに、安全でも適切でもありません
-
それぞれ遊泳禁止の愛に飛び込んだ四人。泡沫で先が見えない孫二人と、岸に打ちあがられた状態の母親、先が見えている(?)祖母。女だけで食事をする海辺のレストラン風景が象徴的でした。
- うんとお腹をすかせてきてね
- まさに愛に溺れている二人は、いわゆる甘い生活を過ごしているわけではないのですが(溺れているのでしょっぱい?)誰にもたどり着けないところで濃厚な関係を築いている二人が羨ましく感じられます。
- サマーブランケット
- 恋人や家族を失い、記憶の中に生きる道子は言ってみれば晩年を過ごしているわけですが、その記憶の眠りから目覚めさせるかのような若いカップルの存在が煩わしく眩しい一遍でした。
- りんご追分
- 僕には、醜く男を呼び出す客と、その男を眺めて自分を振り返る主人公の、その窒息しそうな生息感の象徴として感じられました。危険な愛の海で溺死しかけているかのように。
- うしなう
- 危険な海に飛び込まず、陸に上がった女性の物語として読めました。
- ジェーン
- 目的も、将来の見込みも無い異国での生活を、ジェーンとのルームシェアで変化させる、紘子の不倫生活最後の瞬間として読みました。その後の紘子がとても気になります。
- 動物園
- 現状を甘んじて受け入れている陽子の姿は、満足感は自分の中にあることを示しているように感じられました。
- 犬小屋
- 「動物園」の陽子が自分の家族の形をよしとしているのに対し、「犬小屋」では、友人の郁子がよしとしています。自分の基準通りにならない家族。
- 十日間の死
- この一冊の中では、唯一溺れた愛から抜け出す女性が描かれた一遍です。めぐみに訪れるこの後の物語に期待が持てました。
- 愛しいひとが、もうすぐここにやってくる
- なにも、結婚し子供をもうけることだけが人生ではない。しっかりと根を張った日常を送る帽子職人でした。
ドラマのような人生を送る十人の女性を描いたこの短篇集は、タイトルの通り、遊泳禁止の愛の海に飛び込んだ人たち。それが、たとえ平均的な幸福の中にあらずとも、泡沫に射す光は眩しく輝いていることを表現しているように感じられました。
2005年 2月27日
No. 433
No. 433