受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 430 光射す海 / 鈴木光司 著 を読みました。

入水自殺を図り記憶を失った若い女性と、彼女を取り巻く男と運命の物語。
彼女の運命を決定づける病気と、彼女を捨てた男が乗るマグロ漁船の操業現場を丁寧に取材し、過酷な環境を生きる人々と彼らが紡ぐ愛情の糸を綴った長編小説。
デビュー作「楽園」(新潮社1990/12)
から一年半のインターヴァルを経て上梓された本作は、「楽園」で印象的だった大洋を行く船でのダイナミックな冒険小説の魅力を引き継ぎつつ、医学と、その進歩に伴う問題を取材して、より強力な作品になっています。
実のところ「リング」を読んでの僕の感想は「この作家は、理系の分野が苦手なようだな。」てな侮りがあったのですが、本作「光射す海」と、本来の意味でのSF(空想科学小説)として完璧な「らせん」角川書店1995/07)
に接すると、医学や生物学の専門的な知識に加え、これら科学技術の進歩の影響を直接受ける患者や一般市民の生活や、感情を表現する小説家に様変わりしている事に気が付きました。
何度も書いているように、僕が面白いと思う小説のポイントは、鮮やかな情景描写と、共感が持てるリアルな人物描写です。この小説は、その両方を併せ持つ、僕好みの小説でした。
ちなみに、主治医の望月とともに狂言回しとして、この物語を進行させる砂子健史に対する評価が甘くないところも妙味でした。
2005年2月6日
No.430