受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 420 葡萄物語 / 林真理子 著 を読みました。

生まれ育った土地で、ワインメーカーを経営する夫と彼の母親と同居する映子、三十四歳の物語。

ドラマチックか? と言えば、離婚し帰郷した派手な同級生の美和子に熱を上げる夫……程度の地味な恋愛小説です。
しかし、故郷で地味に生きる映子の世界  夫、姑、同級生、店の仕事、家事、都会との接触  すべてが丁寧に描かれていて、僕には、映子の感情の起伏が、特別に親しい友人、または自分のことのように身近に感じられました。
不景気であることが多少の時代性を持っているのですが、特に生活に困るわけでもなく、健康であり、学校を卒業し、一度は就職して、結婚した映子。生きてゆくだけでも苦労を伴う人から見れば幸せなのでしょう。健康を害した人から見れば羨ましいのかも知れません。では、それですべて満足か。勿論そんなことはなく、何ら高望みをしたわけでもないのに、感情が揺さぶられる日々を送る映子。
彼女が漠然と求めた幸福とは何か。それは、たぶん僕も愕然と望んでいる平凡なのだと気づいたときに、この物語を求める自分にも気づきました。
2004年 6月27日
No. 420