受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 670 番犬は庭を守る / 岩井俊二 著 を読みました。

原子力発電所が爆発し臨界状態となった国で、ウマソーは生まれた。成長しても生殖器が大きくならない「小便小僧」として。やがて警備保障会社に就職するが、市長の娘に恋をした罰として「流刑地」へ飛ばされてしまう。次々と降りかかる不運。絶望の中で見いだした光とは? 壮大で豊穣で、無類に面白い傑作小説。解説・金原瑞人
  背表紙を転記  
大半の人が生殖能力を失った仮想世界を描いています。
実際には、原発事故で放射性物質がまき散らされても、急性放射線障害で亡くなるレベルでなければ不妊にはならないので、本作はサイエンスフィクションではなく、原発事故をネタにしたファンタジーです。
生殖能力を失った人にとっての生きる意味を考えた思考実験的な要素を含む物語です。
過酷な環境に住む、伝統的な社会を保っている地方の文化(よそ者を受け入れたり、旅行者に妻を貸したり)を少し連想しました。

 

将来子どもをもうける必要がない(できない)となれば、自分の人生を生きるのみ。
さて、どう生きようか、と考えて、ウマソーの生き方に、エンターテインメント性のある面白さが感じられました。

 

これに加えて(文庫の解説で金原瑞人も書いているけれど)読んだ僕が「この面白さに乗せて、著者は、本当は別のメッセージを忍ばせているのではないか。」と思わせるモノがあります。そして、おそらく僕以外の読者も
「俺は、岩井俊二が、忍ばせたメッセージを受け取ったぜ。」
と思う仕組みがあるのだと思いました。

 

これを具体的に書くのは恥ずかしいので、ここでは「希望」と言っておきましょう。
同じ意味で「零の晩夏」
でも、メインストーリーの面白さとは別に「希望」が描かれていると思いましたし、
「ラストレター」
も絶望的な状況を生きる主人公の儚い人生にも救い、というか「希望」があったと思います。

 

悲惨で絶望的だ、と自分の人生を呪いたくなったとき、
どれでも良いから岩井俊二の作品を読むと良いかも。
今後の僕に訪れるかも知れない絶望の時に備えて、これを覚えておこうと思います。
2022年 4月16日
No. 670