No. 415 蛍・納屋を焼く・その他の短編 / 村上春樹 著 を読みました。
一九八二年十一月から一九八四年三月に発表された短編集(七編)
- 「蛍」
怪しげな学生寮で大学生活を送る「僕」と幼なじみの彼女、彼女の恋人だった彼の物語 - 後に記録的な大ヒットとなる「ノルウェーの森」(講談社1987/09/10)
- のプロット。たった一人の友人でさえ救えない「僕」の無力感が伝わってきました。
- 「納屋を焼く」
「僕」と、「僕」のガールフレンド、彼女が海外旅行から戻るとともに連れてきた恋人の物語 - 「納屋を焼くんだ」と言う言葉は、ガールフレンドの恋人が発した言葉。不可解な彼や、いなくなってしまったガールフレンドたちに振り回されながらも淡々と生きる「僕」が印象的でした。
- 「踊る小人」
象工場で働く僕の夢枕に北の国から踊る小人があらわれて……、 - 革命後の象工場で働く彼が犯した罪と逃亡へ急き立てられる無情さの象徴として、おもしろく読みました。
- 「めくらやなぎと眠る女」
会社を辞め、帰郷した「僕」がいとこを連れて久しぶりに訪れた病院の今と過去の記憶 - これも「ノルウェーの森」で使われたプロットです。本作では、いとこが治療で受ける肉体的な痛みと「僕」の記憶にある心の痛みの対照性が青春期と大人の対照として読めました。
- 「三つのドイツ幻想」
- 1 冬の博物館としてのポルノグラフィー
性行為から想像される冬の博物館の描写 - 常識的に言葉を並べてみる。感情として「情熱」「衝動」、抽象的に「愛」「欲望」、気取って「義務」「演技」。僕の常識とはこんなものです。性行為を言葉にするなら。どんなに飛躍しても「冬の博物館」は出てきません(笑)。ただし、そんな感慨を持つこの短編の語り部の気持ちはわかるような気がしました。
- 2 ヘルマン・ゲーリング要塞 1983
冷戦中の東ベルリンで要塞を自慢するドイツ青年のガイド - 当時は、たぶんロシアの属国状態だった東ドイツ人である青年の熱心な解説が楽しい。
- 3 ヘルWの空中庭園
冬の西ベルリンに浮かぶ空中庭園のファンタジー - 最後は幻想。周りを分裂中の敵側社会主義国家に囲まれた旧首都で幻想を語るヘルWの幻想。幻想の中で日常を楽しく過ごす人のファンタジーでした。
2004年 5月 2日
No. 415
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