受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 624 ラストレター/岩井俊二著 を読みました。

ラストレター

ラストレター

 
『Last Letter』岩井俊二監督・原作・脚本・編集2020年(※)全国東宝系公開予定の監督本人による原作小説。
(※)発表時より変更があり、本作の公開は2020年予定となったそうです。
映画の情報は、こちらをどうぞ
 

読み始めると止まらない

読み始めると、止まらず引き込まれる物語です。
冒頭では、死者に向けてのラブレターである旨が述べられ、
ラヴレター (角川文庫)

ラヴレター (角川文庫)

 
の続編かな?と思うのですが、さにあらず。舞台は北海道ではありません。
 
宮城県出身の乙坂鏡史郎が、同郷の元恋人遠野美咲の訃報に接し、葬儀が行われた七月末まで遡り、時系列に順い、夏休みが終わる八月末までの出来事を語る物語です。
 
読み始めたら止まらなくなるのは、
物語を語る鏡史郎本人が美咲の死を知る八月半ばまで、美咲を名乗る別人が鏡史郎に手紙を出し続けるからです。
物語はその別人が次々に鏡史郎に送った手紙とともに進みます。
 
ちなみに、これは、ネタバレではありません。
手紙を受け取る鏡史郎は、美咲からではないと知っていて
「美咲はどうしたのだろう?」
と疑問に思いながら手紙を受け取り続けるお話なのです。
 
「いったい、どうやって、この小説は決着をつけるのだ?」
と、著者の意図や、作話上の工夫が気になります。
読者である僕は、仕方が無く、物語の語り部=乙坂鏡史郎とともに、嘘の手紙を読んで
「どうするのかな?」
と思いを巡らしながら読み進むことになりました。
 
この展開がとても面白かったです。

物語の核心は、かなり哲学的な、読者に考えさせる内容

だ、と僕は思いました。
物語の核心部分では、著者が言わんとしているところ(は、読者それぞれだと思うのですが、僕が思うところ)に味わい深いものがありました。
a) 元恋人=遠野美咲が、乙坂鏡史郎と別れたあとに結婚した男、
b) 物語のヒロインになるであろう、美咲の妹=裕里の旦那=宋二郎。
ともに(僕には)「アウトだろ」と思われる”だめんず”です。
ですが、二人の行く末はそれぞれです。
そして、それぞれの子供は、健全に(それなりに苦労はあるようですが)成長しているようです。
 
男との関係をどう読むか、
映画ならどう観るか、
が読者、観客それぞれの味わいになると思います。
 
もちろん、ネットでガヤとして活躍する人のように、非難しまくって気勢を上げるのも一つの読み方だろうと思います。
「男はみんなダメだ、えいえいおー」
と。
ただし、こういう読み方をすると、この小説は、だいぶ不満が残ると思います。それは、誰も二人の男をやっつけないからです。
 
なんで、やっつけないのか。やっつけられないのか。
 
近代の日本の小説は、夏目漱石が「坊っちゃん
坊っちゃん (新潮文庫)

坊っちゃん (新潮文庫)

 
で勧善懲悪を現代的に復活させたところからスタートしたわけですが、
読者である国民の文化レベルが成熟するに順い、単純な勧善懲悪では満足しなくなり、
多くの小説家が、様々な工夫を試みて、多様な作品を編み出しているように思います。
 
その、一つの頂点が、この小説にあるように思います。
 
人を非難したり、悪を懲らしめることに邁進する人は、自らは非難されたり、悪者となることを避けて、無難な道を歩み、チャレンジをしない事が多いように思う今日この頃。
たとえだめんずなパートナーであっても(折り合いが着けられる範囲であれば)折り合いを付けて、自分なりの生活を送る工夫をするのも一つの生き方。そんな提案がされているように思いました。
かなり、僕の個人的な哲学に偏った読み方だとは思うのですが。
 
この文章は、おおよそ同じ内容で、amazonの読者レビューにも「映画が楽しみです。」と題して投稿しています。
2018年12月 4日
No. 624

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