amazonに投稿したカスタマーレビュー
を転記します。
8年ぶりの劇場公開長篇監督作品
岩井俊二作品なので読みました。
2012年9月15日日本公開の映画
「ヴァンパイア」
の監督本人による原作小説です。
監督作品では、
2012年3月10日公開「friends after 3.11」(ドキュメンタリー)
と
の間。
長編劇映画としては2004年3月13日公開「花とアリス」
以来8年ぶりの公開作品です。
ヴァンパイアのヰタ・セクスアリス
主人公サイモン・ウィリアムズ。二歳か三歳の頃の記憶からスタートします。
小説は、ヰタ・セクスアリスのように進行します。
いや、性的な生い立ちを考察しているのではなく、ヴァンパイアとしての性質を考察しているのでヰタ・ヴァンパイアと言うべきかもしれません。
生物学サイエンス・フィクションの香り漂う
雰囲気は、本格的な生物学サイエンス・フィクションとして成立しているウォーレスの人魚(角川文庫2000/10/25)
を思い出させるものがあります。
の続編「延長された表現型―自然淘汰の単位としての遺伝子」(日高敏隆訳1987/7/10:紀伊國屋書店)

- 作者: リチャード・ドーキンス,日高敏隆,遠藤知二,遠藤彰
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 1987/07
- メディア: 単行本
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で、進化の主体が個体ではなく、遺伝子であることを説明するために出した例(吸虫に寄生されたカタツムリの変化)を引き合いにして、サイモン・ウィリアムズがヴァンパイアの性質を類推するくだりを面白く感じました。
小説の後半にさしかかり、サイモン・ウィリアムズが自分のヴァンパイとしての欲求がどこからくるのかの考察を深めていくシーンでは、リチャードドーキンスの著作には無い、岩井俊二オリジナルの寄生虫による宿主操作の例も加えてあります。
サイモン・ウィリアムズは、高校の生物学教師。当然リチャード・ドーキンスの主著は一通り読んでいる事が前提でしょうが、単に引用するのではなく、オリジナルの別の例を持ち出すところは、岩井俊二の生物学への傾倒振りが窺えるようです。
内面描写によるリアリティー豊かなヴァンパイア
小説を読む限りは(具体的な描写がしつこくないので)猟奇殺人のお話でありながら、グロテスクな面が少ないように思います。
映像だと外面から行動を観ることになると思うのですが、この小説は主人公の一人称で進行します。
映像と同じように、外面から描く小説をハードボイルドと呼びますが、本作は主人公の主観を内側から描いているので言うなればインナー・ハード・ボイルドと言えると思います。
「なるほど、そのように感じて、吸血をするわけだ。」
主人公の主観はあくまでも客観的な考察に徹します。
読んでいて、彼の行動に納得する自分に気がつきます。リアリティーがあります。あたかも、自分のことを
「なんで、僕は血を吸うのだろう。」
と考えているような錯覚に陥りました。でも実際は猟奇殺人のお話。よく考えると危ういし、とんでもないですね。
これを映画にするとどうなるのだろう? 是が非でも観てみたくなりました。
2018年 7月29日
No. 620
No. 620