受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 669 京大 おどろきのウイルス学講義 / 宮沢孝幸 著 を読みました。

新型コロナウイルスの「次」に来る、動物由来のウイルスは何か? 批判を恐れない提言で注目されるウイルス学者が、ペットのイヌやネコが媒介するウイルス、突然ニホンザルが血を流してばたばた死んでいった原因となったサルレトロウイルス4型など、変異すれば人間社会を脅かす可能性があるウイルスを紹介する。
しかし実は、病原性のウイルスは全体のごく一部。病気を起こすどころか、1億年以上前に哺乳類の進化を促したウイルスもある。宿主のDNAを書き換える力を持ち、胎盤の形成に関与したといわれているレトロウイルスである。本書ではレトロウイルスの驚くべき力についても解説。
  カバーの折り返し<内容紹介>を転記  
今回のコロナ騒動を良い機会と考え、お勉強のつもりで本書を手に取りました。
「今さら」なのは、騒動の初期に日経Goodayの記事「新型コロナウイルスによる肺炎は、これまでと何が違うのか?」
を読んで、自分なりの対応が出来ていたからです。この二年間の騒動の間、僕には医学的な不安はありませんでした。社会的な対策だけを、心がけていました。この点は後述します。
 
本書はウイルスを手掛かりに生物学を解説した本です。
「えーっ! ウイルスは生物じゃないよ。」
と思いつつ読み始めました。
むろん、本書ではウイルスを生物と混同していません(笑)。
どちらかと言うと「生物にとって、ウイルスとは?」という内容です。
 

第1章 「次」に来る可能性がある、動物界のウイルス

第1章は、本書が医学的な対処法の解説書ではなく、当然のことながら、社会的な「後ろ指指されない」ための指南の本でもなく、ウイルスとはなにか?を解説する本であることの宣言です(と、僕は理解しました)
ここでの僕の気付きは、僕がウイルスを病原体として認識していたのが誤認だ、ということでした。電子顕微鏡が発明される以前は「濾過性病原体」と言われていたわけだし。
ちなみに、小さいとなぜ電子顕微鏡でしか見ることが出来ないのか?光学顕微鏡ではなぜ見ることが出来ないのか?を調べると、光学の基礎をお勉強することが出来ます。
 
・ 病気としての対応方法を調べているだけでは、ウイルスのことをほとんど知ることができない。
・ 病原体としてのウイルスに対応するにしても、人間の病気だけを調べてもわからない。
そういうことがわかりました。
 

第2章 人はウイルスとともに暮らしている

第1章で誤解が解かれた後、あらためてウイルスとは何か?を解説されています。
 

第3章 そもそも「ウイルス」とは何?

第2章に引き続き、ウイルスを網羅的に解説しています。この二年で「コロナ」という種類があるのは僕の知るところとなりました。でも
「それならば、コロナ以外のウイルスってどんなのがあるの?」
って全く知らない事に思い当たりました。
また、RNAウイルスとDNAウイルスがあることは存じておりましたが、それ以上は全く知らない事も認識しました。
 

第4章 ウイルスとワクチン

ワクチンの基礎知識と、予防のために使う際のメリットとデメリット。
デメリットの具体的なケースを読んで
「なるほど、メリットとデメリットを勘案せずに、やみくもに接種すればよい、と言うものではないな。」
と思いました。
 

第5章 生物の遺伝子を書き換えてしまう「レトロウイルス」

ウイルスとは、自己複製せずに、自分のDNAなりRNAを元に、感染した相手の細胞に複製を作らせる(自己複製しないから生物でない)までは存じ上げていましたが、
その手法の一つとしてのレトロウイルスの作用と、その二次的効果(二次的でなく、本来の特性かも知れないけれど)による感染された側の変化(と変化のしにくさ)は、まったく存じませんでした。
 

第6章 ヒトの胎盤はレトロウイルスによって生まれた

一口に「哺乳類」と言っても、マウスとウマとでは胎盤の形が全く異なることに衝撃を受けました。共通の祖先が胎盤を持っていなかったと示唆されるというふうに感じました。つまり、我々の胎盤は、ウマ(奇蹄目)やネコ、イヌ(肉食目)などのローラシア獣類と分かれた8500万年前以降に独自に発達したのだ、と推測できます。
霊長類(サルの仲間)と近縁なのは、齧歯類とウサギ類ですが、あわせて真主齧上目という分類になるらしいです。(別の所からの情報)。これらが似た胎盤をもっていることがなにやら示唆していますな。
胎盤の進化については、日本ウイルス学会のウェブサイト
で公開されている学会誌「ウイルス」
の第66巻第1号(2016年06月)
に掲載されている
1. 胎盤と内在性レトロウイルス 
東京大学大学院農学生命科学研究科・高等動物教育研究センターの今川和彦と草間和哉、
東海大学医学部・基礎医学系分子生命科学の中川草
に、系統図に変化が起こった(レトロウイルスに感染した)時期が書かれています。たいへんおもしろいです。
 

第7章 生物の進化に貢献してきたレトロウイルス

「獲得形質」は遺伝しない。というのは常識だと思うのですが、
それが生殖細胞のDNAは変化しにくいという意味に留まるのであって、他の体細胞のDNAは成長するにつれ、変化している。という内容にビックリしました。
生物学の本を沢山読んで、生物、特に遺伝については知っているつもりだったのですが、案外僕が知らない事は沢山ある。近年も研究の成果により新たな発見が相次いでいる、ということを思い知りましたですよ。
それと、この章での僕の気付きは、遺伝の二大要素である「突然変異」と「自然淘汰」のうち、「突然変異」の仕組みについてほとんど理解していなかった、ということです。
この章では、突然変異の発現のしくみが詳しく書かれてあると思いました。
 
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一冊を読み終えて、僕の読書の大きな分野を占める生物学の本に期せずして出会い、新たな知識を大量に仕入れることが出来てラッキーだ、と思いました。
 
東日本大震災の時には、原子力発電について随分と読みあさり、当時知らなかった「どんな甚大な事故が起こっても、原子力発電所原子爆弾のような爆発は起こらない。」を知りましたが、
今回のコロナ騒動では、ウイルスと生物の進化についてお勉強することになりました。
この本の内容とは関係ないのですが、コロナ騒動については、最初に記したとおり、先ずは肺炎とふつうの風邪との区別を知ることで、「正しく恐れる」ことが出来ました。
その後、テレビなどでも大量の情報が流れましたが、それらが、当の新型コロナウイルス(COVID-19)を調べて新たな情報をもたらすものではなく、社会的な対処法(非難されない、後ろ指指されない方法)を解説するものばかりでした。そして、どんどん変化するウイルスに対して、テレビの情報はほとんどアップデートされず、いつまで経っても非日常を続けようとする圧力にうんざりしました。
僕は、
「肺炎を引き起こすのがこのウイルスの特徴。」
「肺炎にしないことが、肝要」
と学習しました。
ですから、肺炎を引き起こす頻度が低くなった株が流行した時点で、コロナ騒動は終わって良いはずだ、と考えることが出来ます。
しかしながら、テレビでは、相変わらず危機感を煽る報道が多い様子です。
どうやら、テレビで警戒を促す人は、このウイルスの特徴を理解していないでしゃべっていることがうかがい知れます。
 
そして、そういう報道を好んで、周囲の対策が不十分な人を指導したがる人の多いことも知りました。
テレビも、僕の周囲の指導好きな人(説教好きとも言う)も、必要な勉強ができていませんでした。
 
この騒動は社会的な弱点を浮き彫りにしました。
そして、勉強しない人は、自分が勉強できていないことに気がつかない。と言う人間の特性も僕の知ることとなりました。
 
子どもの頃に読んだ戦時中の嫌な社会風俗(竹槍訓練をして戦争に協力しているそぶりを見せる人が威張る風俗)は、こういう状態だ、と理解しました。
竹槍訓練をすると、戦争に勝てますか? あまり効果がないように思います。でも、当時の人にとっては、怖いのは敵国の攻撃よりも、非国民と呼ばれ虐げられること。
非国民と呼ばれないための対処方法は、大切な情報でした。
 
今のコロナ対策も、竹槍訓練と同様に、実際には役に立たない事ばかり。でも、対策を訴える人は、威張っており、対策不十分と認定した人を攻撃するようです。
敗戦後に、軍国婦人の方々は黙り、僕の母親の情報によると、学校で子どもたちに教えていた先生には自殺された方も多かったそうです。
コロナ対策をいつまでも訴えて威張っている人は、如何するのかな。と思うのですが、戦争に負けた時のような意識の変化はおこらずに、威張り続けるのだろうな、と思います。厚顔無恥とは、コロナ対策をいつまでも訴え続ける人ですが、彼らは恥を知らないのだから、いつまでも威張っているのだろう、と思います。
2022年 4月11日
No. 669