No. 668 なんといふ空 / 最相葉月 著 を読みました。
僕が読んだのはオリジナルの中央公論新社の文庫版でした。が、2014年に単行本未収録のエッセイを加え、また後日談なども付け加えてノンフィクション執筆の後日談を加え、増補版として復刊したそうです。
会社勤めをしていた頃の忘れがたい思い出「わが心の町 大阪君のこと」、小学生時代の不思議な体験「側溝のカルピス」、競輪の取材をしていた頃に出会った名選手へのオマージュ「鬼脚の涙」懐かしく、切なく、甘くそして若い記憶の数々を繊細な筆致で綴った珠玉の四十八篇。『絶対音感』『青いバラ』の著者による初のエッセイ集。解説 重松 清背表紙を転記
目次を転記して感想を書いていこうと思います。
特記したものの他は「週刊読売」に一九九九年一月十七日号から十二月二十六日号までに連載されたものから選び加筆したものだそうです。
I
- 我が心の町 大阪君のこと~(映画「ココニイルコト」原案)別冊文藝春秋 一九九八年八月号
- ”ハンサムはイケスカン奴が多いという偏見があった私は、なんや意外にええ奴やんかと好感を持った。”
この一文が、本書の特徴、ひいては、最相葉月の作品に共通する特徴を表していると思いました。実際に接した対象に対し、認識を更新していくことができる人だ、と思いました。あたりまえの事ですが。
長年生きてきて気がついたのは、案外自分の思い込みに執着し、自分が接して「ちがった。」と思ったときに、対象の方を「オカシイ。」と認識する人が多いです。特に、ディベートなどで、相手を言い負かせるのを得意とする人は、決して自分の認識を修正しません。と、書き始めると、僕の怨みを述べるばかりになってしまうので、ここで切り上げます(^_^;) - 側溝のカルピス~書き下ろし
- 星々の悲しみ
- 貝殻虫
- わかれて遠い人
- 鬼脚の涙
- 時をかける人~小説すばる 二〇〇一年三月号
II
- おシャカ様に近い人~小説すばる二〇〇〇年五月号
- 遠距離の客
- パン屋の二階
- あなたはだあれ?
- 旨いけど
- 女にはわからんけど~月刊現代 一九九九年六月号
- 夢見るキャッチボール
- まだ、虎は見える
- ジュリー、ジュリー、ジュリー
- 音が気になるツボ
- 声の力
- 目で聞く人
- 左手は戦略家
III
- テーブルマナー
- 歩きだす谷間
- 赤いポストに
- 蕾
- 昆明断想
- 白菊
- 二十万人の夏
- 彼女の疑問
- 黒いスーパーマン
- ドラマチック・ドラマ
- ふたりのM
- サルと呼ばないで
- 二十五年ぶりの宝塚
- こんにちは赤ちゃん
- 本屋へ
- お花畑の悪魔
- 知らない作家の本を読む人~小説すばる 二〇〇一年五月号
- 二百円の災い
- なんとお呼びすれば
IV
- 壁の穴
- 実家にあった鴨居玲の絵の話。
- ふくろふはふくろふ~進研ゼミ高二チャレンジ 一九九八年十一月~九九年三月号
- 1. 種田山頭火の話。2. 大宅歩の話。3. 実弟の話、4. 中高時代の親友の話、5. 1998年「絶対音感」
- がベストセラーになるまでの5年間の話。
- 夢
- 1995年ころ、自転車関連から取材の対象を切り替える切っ掛けなど。
- ある写真家
- 写真家畠山直哉との関わり
- ある退社
- 会社を辞める決心を促したエピソード
- 記憶
- 記憶に残っていない人や、事柄について
- 心の時間軸~書き下ろし
- 趣味で超常現象を語る人がいますが、そうではなくて、見てしまったもののお話など。
- 私が競輪場を去った理由~別冊文藝春秋 一九九八年十一月号
- 『絶対音感』の奥付のページに著作として『高原永伍、「逃げ」て生きた! 風の人35年間のバンク・オブ・ドリームス』(徳間書店、1994年7月)
- が紹介されているので、以前に競輪を取材していたことは存じ上げていたのですが、ジャンルとしては、随分と方向転換をしたものだ、と言う感想も持ち合わせていました。その経緯など。
- 手紙~書き下ろし
- 本書を原案にした映画「ココニイルコト」
- の「大阪君」の家族へ出した手紙のこと
あとがき
解説 重松 清
と同じ。つまり、苦労の末に『絶対音感』で大成功し、新たなジャンルでも強力な本を出したころ。
「私は、こうして成功した。」「若者も、努力すれば私のようになれる。」と、今ふうに言えば「マウントをとりにいく」ことも出来るけれど、そうではなく、冴えない自分を不安に思った時期を正直に描写し、そのころに接して助けられた人のエピソードなどを紹介しています。
などを読んでも同じ感想なのですが「人に接して丁寧」「なるべく正直に生きる」という二本立ては苦労された時代に培われたものだったのだな。と思います。
「生きていく」と言うのは、それほど格好の良いものではなく、また面白い事ばかりでもありません。でも、生きていれば楽しいこともあるし、嬉しいこともあります。無理に取り繕ったり、虚勢を張る必要はない。と、優しく教えてもらった、と言うか自分を肯定してもらったように思います。
僕は会社勤め。職場にはスタープレイヤーがいます。
長いこと一つの道を突き詰めて指導的立場に立っている人もいます。
逆に、たいした技術も持ち合わせないのに、うまく出世している人もいます。
仕事はほどほどにして、幸せな家族を大切にしている人もいます。
そのどれでもない僕は、さりとて、無理をしてそうなろうとしても、大失敗しそうな予感がします。
と言うようなことを書くと、つまらない人生を生きているように思えるかも知れませんが、案外毎日楽しいです(^_^)v(腹が立つことも少なくないですが(;´Д`)
この秘訣も最相葉月から学んだところが結構あるかも知れません。
方便のウソが不得意な人、空気を読んで取り繕うのが苦手な人。はったりが利かない方々。そんな人にオススメの一冊でございました。
2022年 3月21日
No. 668
No. 668