受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 452 遺伝子が解く! アタマはスローな方がいい!? / 竹内久美子 著 を読みました。

遺伝子が解く! アタマはスローな方がいい!? (文春文庫)

遺伝子が解く! アタマはスローな方がいい!? (文春文庫)

 
週刊文春連載「 ズバリ、答えましょう」からの単行本化第四弾。
今回は、あまり脇道にそれず、生物学と僕たち人間や生きものの関係に話題がまとまっていて、読みやすい一冊でした。
第一章 オスたちの切実なる競争
この章ではしつこいくらい男性の特徴を掘り下げていますが(;^_^A 章末の「自閉症が男の子に多いのは」では、病気としてでは無く、個性(または能力の指向性)としてとらえ、成功例を示しています。僕たち人間は(そして、たぶん他の生物も)同じ種の生物の個体に、様々な性質、能力の優劣があります。その性質の違い、能力の優劣を一つの基準で見て、正常と異常、健康と病気と区別するのではなく、生物学的な意味を考える著者の本領が発揮されています。
第二章 メスたちの止まらない煩悩
第一章と同じ理由で、ダウン症を取り上げた章末の「高齢出産にも意味がある?」に感銘を受けました。
第三章 家族、この深遠なるシステム
ネタバレこの章の「実子よりも育ての子がかわいい??」は、「遺伝子が解く! 男の指のひみつ」(文春文庫2004/07/10)
解説で鈴木光司が投げかけた質問に二通りの答えを示しています。僕が文庫の解説を読んだときに考えた解答は後者。前者の答えが純粋に生物学的な意味ではなく、現代に通用する社会的な意味を考えているところに、読者への配慮が感じられました。
第四章 生きものたちの奇妙な日常
この章では、一息ついて他の生物に目を向けていますが「北枕と方向オンチ」で、人間にも備わっている地磁気を元にした方向感覚と、その能力の回復については、仰天しました。また、雑草がどこからやってくるのかを解いた「雑草の生命力のひみつ」にも驚きました。
第五章 ぼくらはみんな食べている
食物と、生物について。「BSEの発症メカニズム」では、我々が遭遇した新種の感染症の実態を詳しく解説しています。
第六章 すべては遺伝の名の下に
最後は少々専門的に遺伝のお話し。でも最初の表題でもある「アタマはスローな方がいい!?」は記憶を抑制する遺伝子に加えて、人の賢さ(または賢く見える人)と、その逆の人について述べています。サラリーマンを長年やっていると、「本当は賢くないけれど賢く見える人」と言うのも、仕事に必要と言うことは理解しているのですが、「えっ? ちょっとまって、もっとよく考えてみようよ。」と僕が主張するまもなく、その瞬間に結論を出さねばならない時に、「単に賢く見えるだけ」の人の主張が通っていくのは「仕方がない。そう言う結論も必要だ。」と思う一方、大変残念に思うのは僕だけでは無いと分かって(実際仕事には役に立たないけれど)慰められました。
「色覚の異常とその遺伝について」もグッド。本書では触れていませんが、多くの色弱の人が形状認識能力に優れている事は人口に膾炙されています。
たとえば国立遺伝研究所の下記ページなどが参考になります。

色覚の多様性と視覚バリアフリーなプレゼンテーション | 第2回 色覚が変化すると、どのように色が見えるのか?

ベトナム戦争当時の米軍が敵のカモフラージュを見破るために部隊に最低一人ずつ色弱の人を配属したエピソードもよく聴く話です。
同じHatena Blogのこの方のページなどもご参考にして下され。

sikizyaku.hateblo.jp

「迷彩色を見破れる」

特殊能力と言うよりは

迷彩服やカモフラージュは、子供がふざけてやっているとしか思えないようなちゃっちい感じ

だそうです。

普通に目に入るだけで「へんなのがいる」とわかるレベルということですな。

男性の5~10%と言うのは、異常ではなく、多型(血液型と同じく、複数のタイプが存在するという意味)です。たしかに、5~10人の班を作ったら、中の誰か一人は、このタイプの人がいて欲しいです。

 

ちなみに、僕は現在工場の生産工程の計画書を更新する担当なのですが、カラーは、ユニバーサルカラーデザイン

カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット – 多様な色覚に対応したデザインと社会の改善 特定非営利活動法人カラーユニバーサルデザイン機構CUDO

を参考に塗り分けています。

変更点を赤色(R, G, B)=(255, 0, 0)に塗り分けていたのですが、男性の一割近くの方には逆に黒っぽく見えると言うことですので、このデザイン指標に順って、オレンジに近い(R, G, B)=(255, 75, 0)にしました。

最近は電車の路線図などもカラーユニバーサルデザインを参考に塗り分けられているそうです。

生物学の進歩が、実生活に役立った例ですね。

2005年 8月13日
No. 452