受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 665 ウエストがくびれた女は、男心をお見通し / 竹内久美子 著 を読みました。

一年分を加筆、改題して、まとめた一冊。
学術論文をもとに、身近な問題の考え方を示す著者の真骨頂は健在。
思い込みを元に述べられた私見に接する機会が多い中、オアシスのように心が潤されたような感じです。
はじめに  PC(ポリティカルコレクトネス)の前にBC(バイオロジカルコレクトネス)を!
前書きで、本書がPC (Political Correctness) に対するカウンター=BC (Biological Correctness) に立脚したものであることを表明しています。なるほど、僕が著者の作品を好んで読むところはこの通りです。
ところで、PCの害は、それが検証による是正を伴っていないことによるのではないか、と今書いていて思いました。一度「これがPC」と認定されたと思った人は、どんな弊害があろうとも、社会全体に不都合を生じようとも「私が正しい。」と自分の都合を押し通すところが問題だ、と思いました。
BCも、たとえば一度「定説」と言われたことを頑なに貫き通そうとする態度で臨めば、嫌な感じの主張に陥るはず。
結局の所、BCが優れているのは学問に拠っているところ。検証と訂正が常に繰り返されているから、と思いました。
以降、本書は七つの章立で、語られます。
第1章 コロナ恐怖で交尾排卵が活発化?  ポスト/コロナを生きる知恵
時事問題(COVID-19感染症)関連の話題。生物学の出番です。
PCの論理=一度言ったことを状況の変化にかかわらず押し通そうとする態度はイケマセン。いろいろ不具合が生じます。
たとえば、なんだか外で酒を飲む人が悪いみたいになってます。オカシイです。対策になってないし。主張している人は、外でお酒を飲む人が居なくなれば、ウイルスが無くなると本気で思っているのかもしれませんが。
また、テレビを見ていると「家でテレビを見ている人が正しい。」と言われているような気がしてきます。これは、感染症対策ではなくて、テレビ局の洗脳ではないですか。
と言うわけで、ウイルスの特性や、外出を自粛したときの人の反応や対応方法などが紹介されたこの章は、久しぶりに冷静な議論を聞いた感じがします。
たとえば「キャッシュレスでセックスレスになるかも」で話題にされている、 人と接することによる反応。最近は、異性にタッチしないのがマナーと認識されていると思いますが、古いテレビ番組の再放送を見ると、頻繁に男性が女性に、女性が男性にタッチしている事に気がつきます。なぜか、はわからないと言うことですが、タッチの効果を紹介されたこのトピックも思うところが多かったです。
章題のトピック「コロナ禍の不安が出産ラッシュにつながる?」では、 2020年は出生率が1.34で一旦底を突いた2007年以来の低水準。生物学的には子どもが出来やすかったのに、なぜか。ここで述べられる推測に感じることが多い話題です。
白眉は「厄除け祭り」が感染症対策としての効用を考察したラストのトピック「厄除け祭りは集団感染のための日本人の知恵」でした。
第2章 誘われオトコとオンナ  エセフェミニズムをぶっ飛ばせ!
Gordon G. Gallupらが2002に発表した"Does semen function as an antidepressant?" Archives of Sexual Behavior, 31, 289-293.を紹介したトピック「精液は女の心に安らぎを与える」がおもしろかったです。
随分以前のことになりますが、僕の1度めの結婚中に思い当たる節がありました。(この本では、モテる男の指標として「結婚回数」をカウントした研究の紹介があったので、僕も、複数回結婚していることを、さりげなく、ここでアピールしています(笑)子どもをつくろうと、二人で励んでいた期間は、妻が精神的に安定していたように思います。
第3章 カップルの不都合な真実  なぜ浮気がとまらないのか
「夫のマスターベーションは子づくりに効果バツグン」のトピックがおもしろく感じました。不妊治療に病院の門を叩く前に、試してみてはいかがかと。 以前の著作(遺伝子が解く! 男の指のひみつ(文春文庫2004/07/10)
では、さらに別の試みとして(一見するとトンデモですけれども)日中別々に過ごしてみるとか、ソフトSMを試してみるとか、様々なアイディアを考案されており、知り合いが妊娠に成功したということが紹介されてました。「授かり物」妊活には、まだまだ研究の余地があるのだな、と思いました。
「無意識にいくらでもうそをつく女、恐るべし」のトピックで指摘された「理系男の嘘のつけなさ」は、二度目の結婚後に痛感しました。「俺はなんと正直なのだろう」と。方便を多用する妻。正直に感想を述べる僕に「そんな事言ったら失礼じゃないの。」とウソを僕に強制したり「言わなくても良いのに。」と、僕がしゃべるのを遮る妻。大変なストレスです。
彼女がウソをついたり、ウソを強要していると意識していないことにもショックを受けました。なんでしょう、あの身勝手な正義感は。「なるほど、そういうことか。」と、本書を読んで思いました。
一方、友人には「彼は、自分で納得するまで動けない人だから。」と理系的性格を理解し、尊重する妻を迎えた人もいて「女性にもいろいろいるなぁ。」と歳を取って深く思うものですよ。そう言えば、大学の同じ学科には約150人中5人の女性が居て、彼女らとは気さくに話していたことを思い出しました。
第4章 わが国に迫るもう一つの危機  皇室問題の国民的議論を
政治的な話題であり、そのまま賛成はできないのも多いのですが、押しつけがましいところがありません。自分の意見として述べられています。敬遠することなく、聞く(読む)ことができます。
人に話を聞いてもらうときの、お話しの仕方としても参考になったように思います。
第5章 誤解だらけの遺伝と人間社会  遺伝子こそすべてなのに
DHA (Docosahexaenoic acid)について詳しく書かれたトピック「世界一の母乳で育った日本の子どもたち」がおもしろいです。

ドコサヘキサエン酸 - Wikipedia

で急いでお勉強しました。いわゆるDHAは名前の通り、22個(ドコサ)の炭素鎖のうち六つ(ヘキサ)の二重結合(エン)炭素の酸ですが、六つの二重結合はいずれも共役ではなく(間にメチレン炭素を挟んで)シス型を持つものなのか。そして、植物中ではω-6(カルボキシル基と逆側の末端メチル基から数えて6つ目に二重結合がある)オレイン酸の二重結合をω-3位に一個増やしてα-リノレン酸を作ることができる。人間は、α-リノレン酸からDHAを合成する。とφ(..)メモメモ。いろいろ勉強になった。なるほど、DHAは頭を良くする(ていうか、不足しない方が良い)と納得しました。
第6章 メス(女)は閉経しても価値がある  合理的な生物の世界
章題のトピック「社会の役に立っているおばあさんを”ばばあ”と呼ぶな!」は納得。女性の長寿命には(進化論に親しんだ読者にはあたりまえだと思いますが)当然意味があります。あらためて、本書で読んでうなずくことしきりでした。
第7章 生き物社会オドロキの新常識  「そんなバカな」と言わないで
「合法的薬物で夢の九秒台が実現する?」は、東京おりぱらで使われたのかな?と気になるところです。
「オール・ブラックスが踊るハカの生物学的意義」は、伝統的な風習や、迷信、おまじないの類いも調べてみれば、実効性や根拠が確認できることもあるのだな。とおもしろいトピックでした。
「あなたやお子さんが独創性を発揮するための魔法」を読んで気がついたことがあります。21世紀に入ったころから、CADの性能が向上し、工業デザインで曲線を多用できる様になりました。(二十世紀のうちは、曲線を用いた乗り物のデザインや加工は、労力が掛かり、高価なものにしか用いられなかったように思います。)使用する側には、大変なメリットがもたらされているのかも、と思いました。

この一冊は、実際の生活に直接役に立つ話題ばかりではありませんが、学術研究の成果を自分の生活にあてはめて考えてみると、日々の生活が、少し楽しくなったように思います。

2021年 9月19日
No. 665