受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 248 白蓮れんれん / 林真理子 著 を読みました。

白蓮れんれん (中公文庫)

白蓮れんれん (中公文庫)

  • 作者:林 真理子
  • 発売日: 1998/10/01
  • メディア: 文庫
 
未発表の恋文七百余通をもとに描く、新しい柳原白蓮像。華族に生まれ、炭鉱王に再嫁し、大正の世に「白蓮事件」と騒がれながらも、ひとすじに貫いた恋の物語。柴田練三郎賞受賞作
  カバーの背表紙を転記  
僕が読んだのは中公文庫版ですが、集英社文庫にもなっているようです。
白蓮れんれん (集英社文庫)

白蓮れんれん (集英社文庫)

  • 作者:林 真理子
  • 発売日: 2005/09/16
  • メディア: 文庫
 

大正時代。九州の炭鉱王と結婚し、後に帝大生と恋に落ちた歌人柳原白蓮(柳原燁子1885~ 1967)の半生に取材した伝記的時代小説。
直接関係ありませんが、この小説には、柳原白蓮と共に歌人佐佐木信綱(1872~ 1963)門下に名を連ねる九条武子(1887~ 1928)も登場します。作中「同じ藤原氏」とあるので、関連したマメ知識?を「苗字名前家紋の基礎知識」渡辺三男監修・編(株式会社新人物従来社1992/11/08)

から少々。
藤原氏は、平安以降栄えを独占する四大姓「源・平・藤・橘」の一つ。大化改新中大兄皇子([なかのおおえのおうじ]626~ 672;天智天皇、在位668~ 672)を助けた中臣鎌足([なかとみのかまたり]614~ 669)が藤原姓を与えられたのが始まり。乙巳の変(645)を「むじこ(645)の世界、大化の改新」と覚えた方も多いのでは。
その後、藤原氏の女性は多く皇室に入り、父親が外戚として官職を独占したことをご存じの方も多いはず。
実際、柳原白蓮の叔母柳原愛子(1859~ 1943)明治天皇(1867~ 1912、在位1867~ 1912)との間に第三皇子をもうけ、この子は後の大正天皇(1879~ 1926、在位1912~ 1926)です。だから、柳原白蓮は、当時の天皇といとこの間柄なのです。
が、藤原氏と言っても、それぞれ公家の六つの家格に大別され、到達できる官職に事実上の制限があることは、僕も今上記出展を読んで初めて知りました。
九条家は一番格上のいわゆる「五摂家」の一つ。明治時代は公爵。
一方、柳原家は、学問文章をもって朝廷に使えた第五の格「名家」で大納言が昇進の限界だったとか。

新聞紙上に絶縁状が掲載され、世を騒がせたのが「白蓮事件([びゃくれんじけん]1921)ですが、そこに騒ぐ世間よりも、姦通罪で告訴することなく、すんなり籍を抜いた炭鉱王の気持ちが解るような気がします。破綻している結婚。子供もいなければ「性格の不一致」でスムースに離婚するのが現代ですが、大正の世においても、心の離れた女性に執着を持たず、去る者は追わない男のプライドが、時代や法律に関わらず存在していたことを好ましく感じられました。

林真理子の時代小説としては、明治時代の教育家下田歌子(平尾鉐1854~ 1936)に取材した「ミカドの淑女」新潮文庫1993/07/25)

ミカドの淑女(おんな) (新潮文庫)

ミカドの淑女(おんな) (新潮文庫)

 

と昭和初期の上流社会を描いた「天鵞絨物語」新潮文庫1997/06/01)

天鵞絨物語 (光文社文庫)

天鵞絨物語 (光文社文庫)

  • 作者:林 真理子
  • 発売日: 2008/01/10
  • メディア: 文庫
 

とあわせて三部作のように読めます。時代に翻弄された人、立ち向かい恋を貫いた人、恋愛を通して時代の雰囲気が伝わります。
と、書いてお茶を濁そうとしている僕はこの小説の主題である、恋を貫く女性について感想を述べていないわけです。もちろんラストのシーンには感じるものがあります。では、なぜ主題の部分で感想を書かないかというと、この感想文を書くにあたり、ネット検索したところ、複数の女性読者が書かれた読者書評を読んで、
「彼女たちのように表現できない。」
自分のつたなさを思い知ったからです。修行が足りませんな<僕 精進したいと思いますが、先ずは自分のことからなのでしょうね。

2000年 8月 2日
2003年 5月13日

No. 248