僕が読んだのは上記角川文庫版なのですが、
その後日経文芸文庫に収録された模様です。
パリの出版社オートルマン(Editions Autrement)
が刊行している「街の小説(Romans d'une ville)」シリーズの第三弾として東京が選ばれました。本書は、この東京を舞台に活躍している(今までその作品が仏訳されていない)作家五人が挑んだアンソロジーです。仏題は、東京エレクトリック(Tokyo électrique)。
紀伊國屋書店によって、日本語版も同時に刊行されました。その文庫版です。
- 林 真理子「一年ののち」
- 2001年に田中麗奈主演主演で公開された映画「東京マリーゴールド」(市川準監督、配給:オメガ・エンタテインメント)
-
- の原作。タイトルが"DANS UN AN"と仏訳されるであろう事を考えると、これは、サガン(Françoise Sagan 仏1935~)"DANS UN MOIS, DANS UN AN"(1957/09 JULLIARD書店)へのオマージュと推測される憎い仕掛けです。
映画では、フィナーレで結末を迎えた二人の仲に笑顔を送って終わり。なのですが、原作の短編では、立場を逆転させて余裕を得たエリコが現れます。恋愛で主導権を持つことがどちらかの幸福につながるのか。と、読むと、哲学的なのですが、このように、読者に読書の幅を持たせているところが短編の妙です。 - 椎名 誠「屋上の黄色いテント」
- 東京のど真ん中「銀座」において、テント暮らしを描写した冒険ものです。まともに職に就いている主人公=藤井が、安月給を切りつめた生活をしているところが「フランス人の固定観念に無い日本人像を描こう」と言う意気込みに感じられて楽しい。
- 藤野千夜「主婦と交番」
- 対人恐怖症に悩む主婦=なつ美が友人に付き添われて一人娘と警視庁見学をする物語。このフランス人向けアンソロジーは、何で、こうも、個性的な日本人ばかりを描いているのだ。と三作目にして思います。が、この一遍も「完全に健康的ではないけれども、東京を生きるリアリティーのある日本人の日常。」です。ある意味(フランス人に対する)メッセージ性が感じられるのですが、日本人の僕が読むと、単純に微笑ましい物語です。
- 松村友視「夢子」
- ドーナツ化現象で土地持ちの個人店舗経営者だけが残った街。仲間が経営する暇なバーに現れた謎の女=夢子。結局は誰も手を出せなかった謎の女を酒の肴に、暇つぶしをする、個人店舗経営者たち。これも「東京の非若者文化」をフランス人に紹介してあげよう。と言うメッセージが感じられます。ここまで来ると、東京の衛星都市で育って、現在東京の郊外(都下と言う表現もあるが(;^_^A)に住んでいる僕にとっては「あまり、東京っぽくないアンソロジーだなぁ。」と言う感想があるのですが、やっぱり、この一遍も「東京」にさえこだわらなければ、風情のある短編です。
- 盛田隆二「新宿の果実」
- 最後の一遍は、無職の若者と、違法滞在中の出稼ぎ外人娘の物語。おそらくは、観光旅行で新宿に来ても、外国人には見えない東京。無難を目標に学校を卒業し、就職した僕にも接することのない新宿。昼と夜。光降り注ぐ屋外の暑さと、陰惨とした室内の描写が、大都市の光と闇を象徴している印象的な短編でした。
2005年3月24日
No. 439