受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 643 オーダーメイド殺人クラブ / 辻村深月 著 を読みました。

オーダーメイド殺人クラブ (集英社文庫)

オーダーメイド殺人クラブ (集英社文庫)

 
クラスで上位の「リア充」女子グループに属する中学二年生の小林アン。死や猟奇的なものに惹かれる心を隠し、些細なことで激変する友達との関係に悩んでいる。家や教室に苛立ちと絶望を感じるアンは、冴えない「昆虫系」だが自分と似た美意識を感じる同級生の男子・徳川に、自分自身の殺害を依頼する。二人が「作る」事件の結末は。少年少女の痛切な心理を直木賞作家が丹念に描く、青春小説。
  カバーの背表紙を転記  
「もう、こんな異常な場に身を置きたくない。」
と思った僕の中学時代(※1)と重なって、
「この主人公は、どう乗り切るのだろうか。」
と思いながら読みました。
(※1)とは、言えども、同級生達と海に遊びに行ったり、楽器を弾いたり、楽しい思い出も沢山あります。
主人公のアンが、辛い状況に陥りながらも、自らがモンスター化することなく、なんとか乗り切って行く逞しさにしばし安心しながら読み進みました。

 

乗り切ることができたのは、学校以外の世界が持てたことが一つの要素だろうと思いました。
それは、小説のタイトルでもある「オーダーメイド殺人クラブ」。自分を殺害するクラブ。加害者候補は同じクラスの徳川勝利。上田市なのに徳川(※2)、徳川なのに勝利を[かつとし]と読まずに[しょうり](※3)と読む。
(※2)上田市は戦国の真田家の本拠地。2006年の合併前は、独立した真田町があったし、市役所の向かいの上田城で、真田氏は二度も徳川の大軍を撃退している。もっとも江戸時代初期に真田氏が隣の松代町(現長野市の川向こう)に転俸になった後は、徳川氏に従い、上田城合戦、大坂夏の陣で真田氏と戦った仙石氏が入ったのですが。
(※3)徳川で「勝利」なら[かつとし]と読むだろう。と、戦国時代の歴史ものファンであるワタクシは、徳川家康落胤と噂された大老土井利勝[どい としかつ]」を思い起こすのだよ。
と言うような、突っ込みはほどほどにして、この小説は、二人だけの「オーダーメイド殺人クラブ」が、計画を練りながら、実行に移すまでの物語です。

 

僕の感想は、、、文庫解説の大槻ケンヂが、過不足なく、的確に、熱意を持って書いています。
そう、この小説を読み終えて感じる最大の所は「多幸感」です。
で、僕が付け加えることはほとんどありません。
大学生の時に、高校の同級生に「俺の人生のピークは高校だった。」と話すと「じゃぁ、君は、もう晩年を生きているんだね。」と言われた思い出が重なる程度です。とは言え、生きている以上、いろいろあり、生きていなければ得られなかった歓喜もひとつやふたつではありません。
一つだけ付け加えるとすれば、
「あのとき、かれを理解していなかった。」
と言うのは、
「理解したい、と願い、今は願いが叶って理解が進んだのだ。」
と、他の読者に解説するのではなく、自分の理解として補強したいと思います。
人は、だれかに理解されたいと願い、理解されていると感じることが、幸せの要素になると思います。アンは、徳川に対して、幸福感を与える存在になったのだ、と思うのです。

 

ちなみに、
集英社の文芸単行本公式サイト「RENZABURO」
に、
「オーダーメイド殺人クラブ」単行本刊行時の特設ページがあります。オーダーメイド殺人クラブ|辻村深月
この中で、大槻ケンヂ辻村深月の特別対談が拝読できます。
↑ この対談は「非リア充と小説」「非リア充とロックバンド」について、大槻ケンヂ辻村深月がそれぞれ思いを述べていて、たいへん刺激的です。ファンじゃなくても、是非(って今さらですがm(v_v)m))オススメです。

それと、小説の舞台である上田市の南端から、東御市まで千曲川沿いに歩いて行くと、海野宿と言う、真田氏の主筋にあたる本家(海野氏)が治めた地域があり「江戸時代の宿場町」として保存されています。趣のある江戸時代の町並みが、千曲川の川原わきに広がり、晴れていればすがすがしい一日になります。

真田ファンの方が、たびたび上田市方面に出かけて、上田城真田神社など満喫して「他にはないの?!」と思われた際には、少し足を伸ばして行くのをオススメします。
ワタクシも、ブログでご案内しています。
2019年12月21日
No. 643

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