No. 417 素晴らしき家族旅行 / 林真理子 著 を読みました。
2020年に上下巻の二冊で毎日新聞出版から文庫が再版されたらしい。
三十四歳の忠紘が、恋女房幸子と子供二人を引き連れ、両親の住む家に引っ越してくるシーンから始まる、一年あまりの同居騒動。
なまじ家なんぞがあるばかりに生まれる騒動を、僕は「財産がある、っちゅうことは面倒だなぁ。」と他人事のように思いながら読みました。
この物語の視点である忠紘は、親の期待を一身に背負って中学から私立に通い、親も満足する大学に進学し、就職した男。
僕は高校進学以来、自分の進路は自分で決めて入学した後に報告。最近まで、みんなそうしているものと思っていました。忠紘のように、進学や就職で親密に親と相談する人がいることを知ったのは、ここ数年です。この感覚の違いを知ったときのカルチャーショックは激しいものでした(・0・)
さて、忠紘の両親との同居理由は、祖母の介護。母親と祖母は仲の悪い嫁姑の関係。他に誰も介護をする人がいないと知っての義侠心。
ただし、実際に介護をするのは、恋女房幸子。
妙に濃い肉親との接触が数年前の僕なら信じられなかったでしょうが、今は「こんな家族もあるのだろうな。」と思いつつも、肉親でない嫁の幸子の存在が気になりました。
専業主婦のメリットは、いやなやつと付き合わなくて済む。と誰かのエッセイに書いてあったけれど、そんなことは全然無く、姑のいやなやつぶりが生々しく表現されていて、よく刃傷沙汰にならないものだと感心するほどです。もし、この菊池家が法人として忠紘幸子夫妻を住み込みで雇っているなら、雇用者である姑房枝の無神経さは、お縄ものです。
では、この小説がけなげな幸子を悲劇のヒロインに仕立てた我慢と忍耐の物語かと言えば、そうではありません。この物語は、忠紘幸子夫妻の大恋愛結婚以来続いている篤い絆で、うらやましいまでの愛情あふれる物語になっています。作話テクニックについては、岸本葉子による文庫の解説が的確ですのでご参照を。
性格が楽天的である。と言うことは、それだけで魅力だと言うことを実感させるストーリーです。
外面の魅力と言えば、幸子の描写からは例えばグラマラスでセクシーな女性とは異なる健康体が目に浮かぶようです。
今まで、僕は「人は外見だ!」と思っていたのですが、何も、モデルのような体格でなくとも、自分の恋人に欲しい、欲望が沸々と沸きました。
2004年 5月 8日
No. 417
No. 417