受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 618 鋼鉄都市 / アイザック・アシモフ 著、福島正実 訳 を読みました。

鋼鉄都市

鋼鉄都市

 
市警本部長から突然の呼び出しをうけたニューヨーク・シティの刑事ベイリは、宇宙人惨殺という前代未聞の事件の担当にされた。しかも、パートナーとなる宇宙人側の捜査官はR・ダニール  ロボットだったのだ!
地球からの移民の子孫である宇宙人への反感と、人間から職を奪ったロボットへの憎悪とが渦巻く巨大な鋼鉄都市ニューヨークを舞台に、真相を究明すべく、ベイリの孤独な戦いが始まる……SFミステリの金字塔!
  カバーの背表紙を転記  
amazonに投稿したカスタマーレビュー
を転記します。

僕が読んだのは、

1954年に刊行されたThe Caves of Steelの訳。
僕が読んだのは、福島正実(1929~1976)訳。
ハヤカワ・SF・シリーズで1959年8月に刊行されたものを
1969年11月早川書房世界SF全集の14に収録したもの。この時の作品解説「アイザック・アシモフ  その人と作品  」も含めて、
早川文庫に収録された1979年3月刊行の一冊を読みました。

概要

ロボット工学三原則に基づいた遠い未来(宇宙世紀)のSF長篇小説です。
ただし、宇宙船やロボットを操縦するお話ではありません。
ロボット(デニール
人間(ベイリ)
の二人の刑事がコンビを組んで、難解な殺人事件に挑みます。
 
僕にとっては小学生の時以来の再読です。
おそらく、僕が小学生の時に読んだのは、あかね書房少年少女世界SF文学全集1(1971年(児童向け))だと思うのですが、
小学生当時は、単純にロボットと人間のドラマ
という理解でした。
大人になって、改めて確認したく、購入して読みました。

たしかにロボット工学三原則に基づいたドラマでした。

ロボット工学三原則

本書の解説で要約されている三原則を引用します。
第一条
ロボットは人間に危害を加えてはならない。またその危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条
ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が、第一条に反する場合は、このかぎりではない。
第三条
ロボットは前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己を守らなければならない。
2018年現在、マシンガンを積んだ自動操縦の飛行機や、自走車が実用化されつつあります。アシモフのロボット工学三原則は実現されませんでした。残念な二十一世紀になってしまいました。
我々はアシモフが危惧した世界=殺人ロボットがいる世界で生きていかねばなりません。

おとなむけの小説

それはさておき、本書はそれだけの小説ではありませんでした。
「職場の人間関係」
「妻との関係」
「本音と建前」
など、大人が読んで盛り上がる内容が多いことにびっくりしました。
 
お行儀良く生きてきた妻の名前は、ジツは聖書で「悪女」とされている女性の名前。
「悪女」からの引用であることに、安らぎを覚える妻の心理。
「私だって、本当はワルとしても生きられるのよ。」
と、お利口さんとして少女時代を過ごした後悔を和らげる心理。
 
ロボットであるデニールは、ベイリの妻の複雑な心理を理解出来ませんでした。
しかし、人間のベイリ(夫)は、理解していました。
妻が、自分の名が悪女からの引用であることを心の支えにしている、と。
ベイリ(夫)の理解が、伏線として生きてくる、小説としての手法には、膝を打ちました。
 
また、いわゆる「探偵モノ」の側面もしっかり描かれているところも、大人になって読み直して改めて感心しました。
「え? その人が犯人なの?」
でした。
 
子供の頃に読んだ本も、大人になって読み返すと、いろんな発見があるものだ。と大人になって学習した自分も発見しました。
面白い小説でした。
2018年 5月13日
No. 618