受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 625 小説「映画ドラえもん のび太の月面探査記 / 辻村深月 著 を読みました。

月面探査機が白い影を捉えたという大ニュース。のび太は影を「月のウサギだ!」と主張するが、クラスメートに笑われてしまう。そこで、ドラえもんひみつ道具『異説クラブメンバーズバッジ』を使い、月の裏側にウサギ王国を作ることに。月に興味を持つという謎の転校生・ルカとウサギ王国へ向かったのび太たちは、エスパルという不思議な力を持つ一族と仲良くなる。しかし、そこに彼らを狙う宇宙船が現れて……。のび太エスパルたちを救い出すことができるのか!?
  カバーの背表紙を転記  

2019年3月1日(金)から劇場公開されている「映画ドラえもん のび太の月面探査記」


「映画ドラえもん のび太の月面探査記」予告2【2019年3月1日(金)公開】

の脚本を担当した直木賞作家・辻村深月による小説版です。原作藤子・F・不二雄

単行本もあります

が、僕は安かったので(^_^;小学館ジュニア文庫を買いました。
小学館ジュニア文庫版は、全ての漢字にルビが振ってある他は内容は単行本と同じらしいので。読むぶんにはどちらでも同じだと思いました。
 
映画を観たイオンモールの本屋さんで探しました。
「ジュニア文庫」と言うことで、文庫コーナーを。
しかし、見つからず、amazonで買いました。
買って解ったのは、小学館ジュニア文庫は新書サイズ\(・o・)/
本屋さんで文庫コーナーを当たっても、見つからないわけです(^0^;)

友達とは、仲間のこと

日常的に「友達」は気軽に使われる言葉です。
たとえば「生き物はみんな友達」などと広く使われます。
ところで、英語では「Friend」と言うと、たとえば同じ教会に通う「同士」や「身内」と言うような強い意味があるそうです。
だから東日本大震災の際の米軍の「トモダチ作戦(※)」は、日本人が広い意味で使う「ともだち」以上に、積極的な意味があるらしいです。
(※)Operation Tomodachi:2011/3/11~4/30、作戦司令部:東京・横田空軍基地
 
この小説の特徴の一つは、少年向けに、普段日本語では曖昧な意味で使われる「ともだち」を「仲間」と定義している点だと思いました。ここに著者の熱い意図も感じました。
 
勇気を振り絞って、仲間のピンチを危険を冒して助ける。
犠牲を伴う特攻型ではなく、助け合いながら。
みんなで勝利をつかむところが少年向けとして秀逸に感じました。
たとえば、スネ夫が、迷いながらも、月への救援に加わるシーンは象徴的でした。
 
ヴェルヌの「十五少年漂流記
十五少年漂流記 (角川文庫)

十五少年漂流記 (角川文庫)

 
や、馬琴の「里見八犬伝
南総里見八犬伝 (これだけは読みたいわたしの古典)

南総里見八犬伝 (これだけは読みたいわたしの古典)

 
など、長く読み継がれる伝統的な物語の特徴と同じです。
誰かが犠牲になって勝利を達成するのではなく、
仲間が協力し合いながら、助け合い、
みんなで平和を勝ち取る物語です。

男の子向け

商品企画を勉強すると
「男女兼用はダメ」
「どちらかにターゲットを絞りなさい。」
と教えられます。
大ヒット商品は、その企画意図を消費者が広げ、企画意図を超えて広い年齢層に受け入れられるところにある。と。
 
と、言う意味では、男の子向けの冒険小説として、明確に示された本書の意図が秀逸に感じられました。
お約束の
「しずかちゃんの入浴シーン」(湯船につかって、肩から上だけだけれど)
のび太が裸になってしまう」(大切なところは見えないです)
など
アメリカの放送コードNGシーンかも、と思われる描写も盛り込んでいるところが面白かったです。
ちなみに地動説はアメリカでは未だに本気で信じている人(ボーン・アゲイン・クリスチャンとか)がいることも勘案すると、この映画はアメリカ向けではなさそうです。
いや、ドラえもんのスタッフは、ワールドワイドに戦略を練るみたいだから、案外世界中で上映可能な仕上がりになっているかもしれません。そのへんは、僕は解りません。アシカラズm(v_v)m

オール・ジャパン体制が敷かれています

日本の古典的な物語の要素がちりばめられています。
1. 竹取物語
本作のゲスト主人公「ルカ」や「ルナ」は、
竹取物語に絡めたキャラクターです。
竹取物語 (角川文庫)

竹取物語 (角川文庫)

 
2. 月でのウサギの餅つき
ファンタジーへの導入部である、のび太ドラえもんがお月見の準備をママに命じられるところなど。
3. 宮沢賢治エーテルによる能力の発現。
音が空気を伝わるように、光はエーテルを伝わると考えられた時代のファンタジックな要素。
蛇足を承知で解説すると、
アインシュタイン相対性理論で「光は何もない空間も伝わる。」と証明されたそうです。(って、僕もよく理解していないですが(^0^;))
ちなみに化学で「エーテル」と言うと、アルコールに似た無色透明の液体です。よく燃えます。危険物第四類です。
4. 宮沢賢治;ルカの「風の又三郎」的な小学校での活躍
風の又三郎

風の又三郎

 
これは、僕が小説を読んでの感想ですが。
5. ウサギとカメの物語。
(これは、イソップ童話でした(^_^; ならば、約2,700年前です)
5. 迎え撃つのが、ドラえもんのび太たちでなく、地球連合艦隊なら「宇宙戦艦ヤマト」になりかねない展開。
「ワープ航法」も宇宙戦艦ヤマトだよな。と思って調べたら、米国では、1966年開始のテレビドラマ『スタートレック』にwarp driveでの宇宙船航法が登場したそうです。うむ。やっぱり調べておくものだな。ヘ(~。^)/
6. ルパン三世ルパンVS複製人間
マモー的な登場シーン
7. 日本書紀(または古事記)のヤマタノオロチ
クライマックスの戦闘シーンで、ドラえもんや、のび太たちへ襲いかかるあれ。
8. オシシ仮面ドラえもん内劇中劇)
てんとう虫コミックス第三巻
ドラえもん (3) (てんとう虫コミックス)

ドラえもん (3) (てんとう虫コミックス)

 
第一話「あやうし!ライオン仮面」に登場するマンガをスネ夫も読んでいた設定。
しかし、その結末は!と、ドラえもんマニアへ、突っ込みどころを提供しています(^_^)
他にも、いろいろあるのだろうと思いますが、僕が気がついたのは以上です。
 
小説「映画ドラえもん のび太の月面探査記」を読んだ少年(または、映画を観た少年)が、
後年これらの物語に接したとき、親しみを持って物語の世界へ入ってゆく、切っ掛けになることが想像されます。
 
ドラえもん」自体が日本人の共通了解なのですが、
2019年のドラえもんには、古典を含むクールジャパンの代表格を勢揃いさせる懐の深さがありました。

重層的なファンタジーの世界

「異説クラブメンバーズバッジ」によるファンタジー内ファンタジーと、
ルカたちのファンタジーが重層的に語られます。
複雑なファンタジーですが、読み進むうちに、自然と理解できます。
一度にたくさんのファンタジー要素が登場するのではなく、
徐々に要素が増してゆく、直線的な構成になっているようです。
 
それぞれエピソードが語られ、僕が納得し、
一つの要素を納得した後に、新たなファンタジーの要素が加わります。
 
この構成は、(たぶん)さすが辻村深月!ということなのだろうと思います。

映画にはない丁寧なエンディング

映画では慌ただしかったエンディングが、丁寧に描かれています。
複数の謎解き(と、言うか「これを、こうするから、いつでも会えるよね。」という説明的なのび太たちの会話)があります。
理解が深まりました。
ラストの感動が感激に変わりました。

科学的な要素もぐっど

月の表面の様子や、
月の自転周期が、地球の公転周期と同じで、いつも同じ面が地球に向いていること
など、
(子ども向けだからと言って、子供だましにしない)しっかりとした、SFになっています。よく勉強されていると思いました。
(ちなみに、藤子・F・不二雄の場合のSFは厳密なサイエンス・フィクションではなく、「すこし、ふしぎ」なのだそうです。と、
凍りのくじら (講談社文庫)

凍りのくじら (講談社文庫)

 

 の第一章「どこでもドア」の冒頭で(たぶん)主人公の芦沢理帆子が感慨を述べます。)

小学生男児には、宇宙物理学や、生物学など、科学技術に興味を持つ切っ掛けになるかも知れない、と思いました。
いろんな意味で、息子がいたら読ませたいな。と思いつつ、
自分が読んで面白い一冊でした。
2019年 4月12日
No. 625

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