受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 554 12星座小説集/群像 編 を読みました。

講談社の文芸誌「群像」2013年2月号に発表されたアンソロジー。12人の小説家が自らの星座をテーマに短編を提供しています。

 

牡羊座 安政元年の牡羊座 橋本 治
冒頭「これは、いい加減な話しである。」と断り、幕末の物語が始まります。短編の特性を生かした粋な一遍です。星座占いの効果が小気味よく語られます。
牡牛座 クラシックカー 原田ひ香
かつての恋人が選んだ別の女「品子」に呼び出された喫茶店で。
双子座 星と煉乳 石田 千
東京で一人暮らしの小鈴が恋人と心を通わせるまで。異性に寄せる恋心と、行動とのギャップを客観的に眺めながら、二人の仲が進む瞬間が描かれています。
蟹座 十六夜待ち 佐伯一麦
記憶喪失のまま、役所の人に付けられた名前を名乗り居酒屋の店主を務める杉谷と、両親を早くに失い親戚の家で育った女の上野への小旅行。深夜に二人で眺める月の情景描写がリアルです。
獅子座 サタデードライバー 丹下健太
婚姻届を二人で出しに行く日曜日。立ち寄ったショッピングモールで星座占いを見てもらった彼の反応。婚姻届を出す二人の、「気分が乗らない。」「やっぱ行く」なるやりとりが楽しい。
乙女座 乙女座の星 姫野カオルコ
ゴージャスでストイックなジョセフの休日の朝。二度目の結婚相手デビーとの生活。
主人公のジョセフに共感しました。
人は程度の多少はあれども「変わったところ」があるもので、自分でも意識しているものです。でも、それを個性として理解して欲しい。少なくとも配偶者には。
わがままと解っていても、そう欲する事は罪でしょうか。
それを、世間一般の常識(と、言うのは実際には自分の常識なのですが)に照らし合わせて「あなたが変わり者だから。」と否定する人とは、夫婦生活を送る意味がない。そう感じているのではないかと思いました。
彼の(多少偏屈な)趣向に耳を傾ける人が、パートナーとして必要なのだろうな。そのようなパートナーと巡り会えないジョセフの孤独に共感しました。
天秤座 天秤皿のヘビ 戌井昭人
伝統的な生活を続けていた南の島。リゾートホテルが立って近代化が進む中、四歳の時母親を亡くし、ジャングルの中で一人で育ったイサの物語。
ホテル客相手に蛇遣いで小銭を稼いで生きているイサの生き様が、日本での終戦直後の靴磨き少年を思い起こさせました。教育を受けていない子供から見た世界の有り様に接し、親に保護され、学校に通い、教育受ける意味に思い至りました。
蠍座 いいえ 私は 荻野アンナ
癌で闘病中の姉と、一緒に暮らす妹。姉妹は共に失業保険で暮らしている。怪しげな石を売る研究所を訪ねて。
射手座 夏に出会う女 宮沢章夫
異性の仕事仲間が占いに従って結婚をすると言う。結婚相手の愚痴を同意を求められながら延々と聞かされる男。
僕は最近「聞きたい相づちしか聞く耳を持たない」オシャベリ好きの人の相手をしないことにしました。この小説の主人公にも、お勧めしたい。コミュニケーションと言うのは、聞く側の理解で成立します。一方的にしゃべって、聞きたいことしか聞かない相手とはコミュニケーションが成立しません。
山羊座 山羊経 町田 康
お天気の良い日に、盆地の川沿いを歩いて出会った風景や人。
水瓶座 美人は気合い 藤野可織
種としての寿命を迎えた人類が、望みを込めて宇宙船に乗せて飛ばした生命体を育てる宇宙船の人工知能。精神的領域に限定した、究極の子育て。
魚座 透明人間の夢 島田雅彦
今夜寝る場所もないカップル。レイコとマナブ。失業保険も切れ、泊まり歩く友人宅も尽きた。最後に入った寿司屋でレイコは住み込みの働き口を見つけるが。
現実的で具体的な、ホームレス寸前の状態描写に差し迫る何かを感じました。
附記 12星座の鍵言葉 鏡リュウジ

2014年 3月11日
No. 554