受動態

Daniel Yangの読書日記

No.542 その人、独身?/酒井順子を読みました。

週刊現代」の連載:二〇〇四年一月三・一〇日合併号から二〇〇五年四月二三日号までを収録した一冊。ちょうど「負け犬の遠吠え」(2006/10 講談社文庫)
負け犬の遠吠え (講談社文庫)

負け犬の遠吠え (講談社文庫)

 
が出版された後からの連載です。
本書の中でも、二〇〇四年の流行語大賞授与式のシーンが描写されています。p278「流行語大賞のバックステージにて」
「負け犬の遠吠え」がIn☆pocketへの連載だったのに対し、本書は「週刊現代」の連載です。
In☆pocketは、講談社の月刊「文庫情報誌」です。毎月出版される文庫のなかから特に話題性のある作家を特集し、「おぉ、読みたい。」と購入を誘うものです。僕の手元には(ちょっと古いのですが)二〇〇七年八月号があり、このときは「儒教と負け犬」の第七回が掲載されています。表紙には”『冷たい校舎の時は止まる』文庫刊行
冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)

冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)

  • 作者:辻村 深月
  • 発売日: 2007/08/11
  • メディア: 文庫
 
冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)

冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)

  • 作者:辻村 深月
  • 発売日: 2007/08/11
  • メディア: 文庫
 
辻村深月のSF(スコシ・フシギ)な世界へようこそ”と、辻村深月の特集である旨が記されています。この時僕は、辻村深月作品をデビュー作から総て読破しており、また、この年の正月に刊行された「スロウハイツの神様(2010/ 1/15講談社文庫)
スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

 
スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)

スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)

  • 作者:辻村 深月
  • 発売日: 2010/01/15
  • メディア: 文庫
 
では、著者初のミステリーの要素を含まない(ただし、結末に読者を驚かせるトリックはある)リアリズム小説に感激しており、著者の特集をならば、是非とも読みたい。と買ったものです。つまり、普段から小説などを好んで読む人に向けた雑誌で、ここに連載しているエッセイは、同じく読書好きの人向けであるか、又は(このように言うのは少々気が引けるのですが)この雑誌の中で継続的に読まれることを期待せずに、単行本化を目指して連載であるかのどちらかだと思います。ですから「負け犬の遠吠え」は、一冊として起承転結があり、理路整然とわかりやすく、三十代の独身女性の立場を世間に知らしめる内容になっています。
一方「週刊現代」は、中年以上の男性が読む週刊誌です。ちょっとエッチな話題などもあり「女性は読まないよね。」と読者を選別している雰囲気が感じられます。当然本書(その人、独身?)も、僕のような著者と同年代(僕は著者より二つ年下)か、少し年上の男性を読者と想定していると思います。
 
それでいて「その人、独身?」というタイトルが「負け犬の遠吠え」の続編のように匂わせて、(「負け犬の遠吠え」をちゃんと読まずに、独身女性の泣き言と認識している)中年男性に読書を促す、商売上手な感じを抱きます。
本を手に取る動機は、ともかく、中年男性である僕にとっての”同世代で未婚の女性”は、自分が働いている職場にいる女性と同じような立場であると、認識しています。
「新卒のような二十代の女性は、所詮世代が違う。」と、対等で気軽なコミュニケーションをあきらめている僕ですが (例えば、先日、勤務先の二十代の女性が、昼休みの喫煙所で「元彼が電話を掛けてくるんだけどさぁ。」と言うような話をしていました。これを聞いて、僕は「こりゃぁ、話を合わせるのは無理だ。」と、白旗を挙げて会話に加わることをあきらめた次第です。)でも、「同年代か、少し年下の職場の女性なら理解できるはずだ。」と考えており、職場を楽しい場にするためにも、是非とも世間話程度は出来るようにしたいと思っています。しかしながら、職場で馴れ馴れしく、趣味の話をするわけにもいかず、そこで、このようなエッセイをありがたく拝読するものです。
 
期待通りの一冊でした。
冒頭”「その人、独身?」という常套句”、”社会の縮図・合コンで思い知る負け犬の現実”、”琉球事件顛末記”などでは、負け犬が負けている様を告白し、その後も、「それじゃぁ、モテ無いだろう」と、突っ込み処満載で楽しく読めます。例えば、四編目の”つまらない男に我慢ならないという哀しみ”は、
「結局のところ、自意識過剰で、相手への興味を示せない、と言うことだろう?」
と、僕は思うのですが、そういう突っ込み処を示すのが本書の意図したところなのかも知れない。と、落ち着いて感想文を書いていると、そのように感じる次第です。
その後は、既婚、未婚を問わず、中年女性の興味や態度(第十編”オヤジ心で男子大学生を見守る”や、第十一編”伝統芸能は誰と観るべきか?)を披露し、後半は職場の女性は遠慮して言わない、中年男性に対して不快に思う事なども教えてくれます。(”おふくろの味と少子化の関係”、”定年男性がアピールするもの”)
楽しく読了しました。

 

2013年 5月20日
No.542

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