No. 449 負け犬の遠吠え / 酒井順子 著 を読みました。
文庫版、Kindle版もあるようです。
二〇〇三年一〇月に発売以来、エッセイとしては、異例のベストセラーとなり、二〇〇四年の流行語にもなったエッセイ集です。
久しぶりに、大笑いしながら読んだエッセーでした。
もちろん、僕は負け犬さんたちのことを笑ったわけではありません。
人のことを
「君は負け犬だね」
なんて言ったら、相手を怒らせるだけですし、言った方だって愉快ではないでしょう。
そもそも、この本はそんな事を書いているのではありません。
今まで、負け犬ではない人たちの勝手な思いこみによってしか語られることのなかった独身女性の実像を、軽快なテンポで具体的に描写してみせた、その切れ味の良さが愉快に楽しめたのです。
冒頭での「負け犬」定義では、結婚して子供をもうけた女性と、そうでない女性の対立を、毛沢東が「矛盾論」で用いたのと同じ手法で動的に捉え、本書が単なる勝ち負けを論議するのでは無く、また敵と味方と言う単純な対立では無い事を理解させ、楽しく読者を引き込んでいるように感じられました。
読み終えて思ったことは
「負け犬の皆さんが羨ましい」
です。
自分たちの事を、同じ立場の人が理解してくれていること。また、それを違う立場の人たちにも理解させることが出来る人がいると言うことが羨ましいです。
僕は男の負け犬なのですが、周囲の同類を見て感じるのは、よく言われるほどオタクばかりではないし、モテない人ばかりではないのです。
この本で酒井さんが独身女性の実像を世間に知らしめてくれたように、誰かに、独身男性の実態を描いてもらいたい。そんな切望と、この本を得た独身女性への羨望が印象に残った一冊でした。
本書=「負け犬の遠吠え」は、気軽に読めて面白いエッセイ集なのですが、分析手法に 理系の僕が接することの無かった 文系の学問に裏打ちされた安心感があります。僕は、よっぽど馴染みのある作家の作品でない限り単行本を買わないのですが、本書に限っては、文庫を待たずに買いました。たぶん文庫になるのを待てば、安価に嵩張ることもなく書棚に仕舞えたのでしょうが、この本は、その価格以上の満足感が得られ「プロの仕事だなぁ。」とうれしかったことを表現したく、毛沢東を持ち出してみたわけです(;^_^A
僕の偏見なのでしょうが、社会学を論じると、間違った生物学を引用したり(例えば「自然界の動物は、同種内では争いをしない。人間だけが戦争で殺しあいをする」とか)無関係な批判で感情的なもの(「身体障害者に配慮していない」とか)ばかりで、聞くに堪えない、読むに忍びないものになるのだと思っていました。しかし、本書は違いました。そのようにして(ほとんど八つ当たりのように)非難される独身女性(たとえば「なまじ収入があるために、本来の女性の役割を安易に放擲している」とか?)を、本書では(憶測や感情論に頼ることなく)実情に即した考察で擁護した内容になっているので、驚いた次第です。
2005年5月15日
No.449
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