受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 487 名前探しの放課後(上) / 辻村深月 著 を読みました。

名前探しの放課後(上) (講談社文庫)

名前探しの放課後(上) (講談社文庫)

 
スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

 
スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)

スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)

 
から約一年ぶりの新作です。
前作が、ファンタジーの要素を含まない現実世界で活躍する若いクリエイターたちの物語だったのに対し、本作は、ふと気が付くと三ヶ月前のデパートの屋上にいた、東京近県の江布市内県立高校一年生の依田いつかが主人公です。
彼が戻された三ヶ月間に起こる事件を未然に防ぐべく、仲間を集めて動き出す依田いつかと仲間たちの物語。上下二巻の上巻です。

 

上巻は、いつか君に同級生男二人、女二人が加わって動き出すところまでですので、「この人、本当は犯人じゃないのでは?」「いや、事件は、実際自殺ではなくても同じ状況になるのでは?」など、僕は今後の展開が気になって、気になって仕方がないのですが、上巻だけの感想を述べます。
それは、彼、彼女らの事件解決への取り組みを見ていると、「こんな友達が欲しいなぁ。」「友達ってこういう人間関係のことを言うのだろうな。」と彼らが羨ましい。と言うことです。
特にいつか君が最初に声を掛けた、同じ中学出身でSF好きの坂崎あすなさんが、いつか君を見つめる視線が羨ましいです。
モノをあげたり、もらったり。電話でお話しをしたり、遊びに行ったり。言葉にしやすい事をするのも、友達づきあいなのだろうと思いますが、そうではなくて、例えば、第三者と話す彼を見て、彼の感じていることを自分もまた感じ取るとか、そういうことで理解を深めていける友人関係っていいなぁ。と思いました。
五人の仲間の中には、模範的に描かれているいつかくんの親友=秀人君の彼女、椿さんのような女の子もいるのですが、それとは対照的に、外見では全く問題のなさそうなあすなさんが、いつか君を好ましい。と思うその背景にも興味をひかれつつ、上巻を読み終えました。

 

以上は、

名前探しの放課後 上/辻村 深月 - 小説:honto本の通販ストア

に投稿した書評を若干修正したものです。
もう少々書き加えますと、この小説は、人が人を観察する風景を、男女含めて五人の仲間達についてそれぞれ描写する、すごい小説です。普段他の作家の小説を読んでいると、「著者が好ましいと思う、人の様子」みたいなのが感じられるのですが、この小説では、五人がそれぞれ個性的、特徴的で、その年齢、性別に照らし合わせてリアリティーが感じられるので、「著者が、どの登場人物を好ましいと考えているのか」が、解りません。と、言うより、ファンタジーでありながらも、人の個性の多様性を内面から表現した小説なのだなぁ。と感じ入る次第です。
これは、今(感想文を書いている、今)よく考えると、例えば河野基に接する依田いつか、小瀬友春に接する長尾秀人、その特徴的な様子を、坂崎あすな自身が、自分との接し方が違う様として描写する、手の込んだものなのですが、読んでいる僕には「そうだよね。それぞれ人に対する印象って違うよね。」と、ややこしく頭を悩ますこともなく読み進めることが出来るようになっています。ちょっと真似できませんよね。(ていうか、読者である僕は、真似する必要は無いのですが(^_^;)

2007年1月27日
No.487

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