受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 678 ウクライナから来た少女 ズラータ、16歳の日記 / ズラータ・イヴァシコワ 著 を読みました。

冒険モノとして、たいへん面白く拝読しました

ピンチをどう乗り越えてゆくのか。次の展開が気になる中、一つの課題をクリアすると、また次の課題が降りかかる。
まるで、ロールプレイングゲームのような冒険。
しかし、これはリアル世界での冒険。実体験です。
ウクライナの自宅を出発してから、日本での生活をスタートさせるまでを日記形式で記した一冊です。

よくできた大人です

僕が職場の大卒新入社員に接して「子供っぽいな。」と思うようになったのはいつのことだったのか。もう思い出せません。
しかし、そのジツ、メールや手紙をもらうと
「外見は子供に見えるけれど、立派な大人だな。」
と思うことがあることにも気がつきました。
若い人の外見は、おおよそ皆若く、年寄りから見ると子供です。しかしながら、精神世界は、ひとそれぞれ随分と異なる成長過程を経るようです。
この本の著者「ズラータ・イヴァシコワ」は、立派な大人だ、と思いました。
対人関係能力の発育途中にいる人は、人と接して「どちらが上か」など順位付けを必要とするようです。しかしながら、この本の著者には不要のようです。人と対等な関係を結べる成熟した社会性を持っていると思いました。

大規模災害に類する

2011年の東日本大震災の際に「整然と避難する素晴らしい日本人」を紹介するニュースなどで「日本人て立派だな。」と思いました。
本作を拝読して「ウクライナ人も立派だな。」と思いました。

余談:関係ないけれど[内憂外患]

「内憂外患」は、中国の古典「春秋左伝」に記されている「外内無患」からの転用。
春秋左伝:春秋戦国時代の紀元前722~468年=約250年間の魯国の歴史書。魯国はこの期間に孔子(B.C.552~ 479)を輩出する国です。
このうち成公治世の十八年間(紀元前590~573年)の晩年近く成公十六年の第二段。岩波文庫「春秋左氏伝」では全三巻のうち<中>岩波文庫1989/2/16)
に記されています。
唯聖人能外内無患。自非聖人、外寧必有内憂。
僕は例によって、中国哲学書電子化計画の[史書]-[春秋左伝]-[成公]
を読んでいます。ちょっと訳せませんm(v_v)m。岩波文庫を買えば良いのでしょうが、それは、後日の検討課題として、
なんとなく
「内憂も外患も無い状態は作れないから、ある程度の外患を遺しておいて、内憂に対処していくべき」
と范文子に仮託して主張を述べているような気がします。
春秋左伝の「外内無患」は、強敵武田信玄死去に際して、徳川家康が言った「隣国に強敵がいるのは幸いである」に近い意味のような気がします。
これは、孟子の告子下35段
「入則無法家払士、出則無敵国外患者、国恒亡」
が念頭にあるそうですが、
いずれにしろ、ウクライナに内憂は無く、国が外からの攻撃に抗することが出来ているのだろうな。と解釈しました。
海外に助言を求め、国内の汚職撲滅策を進めている姿勢(※)には、少し驚きました。
(※)ウクライナの改革に関する国際会議:2022年は2月のロシアによるウクライナ侵攻を受け、急きょウクライナの復興と開発に焦点を当てるための「ウクライナ復興会議」として再調整し、開催しました。
 JETROの解説がわかりやすいです。
おそらく、これは日本が見習うべき美徳だと思います。
我々日本人には「教えてあげる」「助けてあげる」という”上から目線”の態度が身に染みついているような気がします。
必要に応じて「教えを請う」「助けを求める」という態度が果たして取れるのか。と、気に留めておくことにします。

 

「日本人の気質は自然災害が多いから。」と説明されることがあります。
今回のウクライナはどうなのでしょうか。
人災ではありませんが、自然災害でないロシアの侵略戦争によって世界のお手本になる市民の特質を獲得したのか、はたまた、もともとそういう国民なのかも知れません。

来て良かった。と思ってもらえるようにお迎えしたい

と思いました。まさか「来るんじゃなかった。」と後悔されるような待遇はしてはいけない。と。
その点、ポーランドで取材していた日本のテレビ取材クルーがちゃんとした人で良かった、と安堵しました。
また、どうやら学校関係も配慮しつつ本人の意向を尊重した受け入れをしているようです。
それと、ポーランドの人も。
本書を読めばわかりますが、幸いにもズラータに接した日本人にヤバイヤツはいなかった模様です。いや、居るのかも知れないけど。ちゃんとした人と遭遇して、冒険を乗り越えてきているように記されています。よかった。日本人の関係者。

著者は太宰治人間失格」の文庫初版本を「お宝」として入手した

わらしべ長者のように、この初版本を出品していた人をつてに日本に来た著者。
著者が日本に来るつての一つが、初版本を出品していた人だったそうです。
「なぜ、ウクライナの高校生が[太宰治」なのか、は、この本にも記されています(日本の漫画)。ただし、僕がその漫画を知らないので、この読書感想文では元ネタのマンガには触れません。
いずれにしろ、ズラータは避難先に日本を選ぶほどの日本贔屓。そして、日本贔屓は世界中にいる、と僕も耳にするくらいですから多いのでしょう。しかし、ズラータの場合は、太宰治とは。(爆)とつけたなりました。

って案外世界に普遍の小説なのでしょうか。

「そういうあなたが世間じゃないですか。」と世間を語る傲慢な人に言い返したい(でも言い返せない)人は、世界に偏在するのかもしれない、と思いました。
それにしても文豪ストレイドッグスは偉大だ。

反戦教育」の教材として最適

日本では(主に毎年夏になると)反戦教育として、戦争を体験した人の困難を語る人の話を聞く機会があります。
最近は、日本の戦争経験者が高齢となり、直接お話を聞く機会は減りましたが。
第二次世界大戦を最後まで戦った日本が降伏したのは1945年8~9月。
既に、77年以上経ったので、日本人の戦争体験者は少なっていることでしょう。とくに話を聞く相手としては。
と、思ったら、現代に戦争を経験する人の本が、ここにありました。
「戦争はダメだ。」
学校での反戦教育の教材としても適当だと思います。
是非、教科書に採用して欲しいと思います。
しかも、著者は16歳。(執筆中に誕生日を迎え17歳になります。)
日本では高校1年か2年。ビックリです。
2023年 1月13日
No. 678

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