受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 672 ムーミン谷へようこそ / 冨原眞弓 著 を読みました。

小説版ムーミン(全9冊)のガイド。
1995年12月15日発行。
トーベ・ヤンソン(Tove Marika Jansson 1914/ 8/ 9 ~ 2001/ 6/27 スウェーデンフィンランド人)ムーミンシリーズの翻訳として「小さなトロールと大きな洪水」ムーミン童話全集1992/6/20講談社
テレビのシリーズを見るだけでは得られなかった、味わい深いムーミンの世界に僕を引き込んだ一冊です。
そして、ムーミン小説全冊を読み終えた後に、さらに理解を深めてくれる有りがたい本でした。
 
著者「冨原眞弓(1954~)」は、日本に於けるムーミン第一人者。
ムーミン小説の発端編「小さなトロールと大きな洪水」を訳しています。
これは、スウェーデン語で書かれた初版(1945年)が表紙を入れても48ページにしかならない小冊子で、キオスクや新聞スタンドにならべられ、それっきりとなっていたものを、トーベ・ヤンソン御年77歳で再版したのが1991年。
英訳を含め世界のどの国よりも早く、翌年1992年に日本語訳版が刊行できたのは、日本に冨原眞弓がいたためです。
1991年当時、第二作「ムーミン谷の彗星」

、第五作「ムーミン谷の夏まつり」

を訳した下村隆一は既に亡くなっており、第三作「たのしいムーミン一家」

、第六作「ムーミン谷の冬」

、第七作「ムーミン谷の仲間たち」

を訳した山室静、第四作「ムーミンパパの思い出」

、第八作「ムーミンパパ海へいく」

を訳した小野寺百合子は、共に八〇歳を超える高齢になっていました。

 
その冨原眞弓が1995年に刊行したのが本書「ムーミン谷へようこそ~いつでも、だれでも、好きなだけ」です。
僕は、東北地方の温泉リゾートに泊まったときに宿に置いてあったのを読み囓ったのが切っ掛けです。
そこで興味が沸き、ムーミン小説全9巻を読破しました。
小説を全部読んだ後、あらためて、本書を探したところ、古本を購入することが出来ました。
そして、丁寧に読み返しました。
 
その間に、冨原眞弓は大活躍で、2011年にリニューアルした21世紀版文庫では、全巻で網羅的な解説を寄せています。
 
あらためて本書を読むと、簡単に調べただけの理解を大いに補足してくれるものでした。
たとえば、
フィンランドに於けるスウェーデン語の話者(人口の2~5%)の立場や、
第二次世界大戦中のフィンランドの困難な状況について、
wikipediaなどでもかなり詳しく書いてありますが、これらは表向きの公式見解的な側面があるのだな、と本書を読んで思いました。
また、このような背景に加え、
現代の他の童話とは大きく異なるムーミン物語の構成要素の解説も大変興味深いです。
ムーミン物語の特徴と言えば、
  • 単純な勧善懲悪ではない、
  • パパが仕事をせずに放浪癖がある。
  • 親たちだけで子どもを残して出かけてしまう、
  • ちびのミィの子供らしからぬ言動、
  • ジツはムーミントロールと同世代のスナフキン(お父さん同士が昔、冒険をした仲間同士)
など、挙げれば切りがありませんが、ひとつだけ「曖昧さにみちた冬」で解説しているトゥティッキ(おしゃまさん)は、解説がありがたかったです。おそらく、これを読んでいなければ「なんだか、よくわからない登場人物」としてスルーしていたかも知れません。 ムーミン物語の特徴的な要素の意味、背景、理解の仕方の提案など、本書を読んでうなずくことしきりでした。
2022年 4月24日
No. 672

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