受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 603 シューカツ!/石田衣良著 を読みました。

シューカツ! (文春文庫)

シューカツ! (文春文庫)

 
大学3年生の水越千晴は学内の仲間と「シューカツプロジェクトチーム」を結成。目標は最難関マスコミ全員合格! クールなリーダー、美貌の準ミスキャンパス、理論派メガネ男子、体育会柔道部、テニスサークル副部長、ぽっちゃり型の女性誌編集志望と個性豊かなメンバーの、戦いと挫折と恋の行方。直球の青春小説!
解説・森 健
   カバーの背表紙を転記  
 
順風満帆、挫折知らずで大学生活を終えようとする時に訪れる最初の挫折が就活。
多くの人が七転八倒するわけですが、この小説では、水越千晴ほか仲間7人の七転八倒を描いています。
文系の学部(四大の院でない)卒としての就活。
時代背景や、実情などは、文庫の森健([もり・けん]ライター、ジャーナリスト1968~神奈川県相模原市の解説が網羅的に親切でわかりやすいです。と、言うか、本屋さんで見かけて森健が解説している事に気づき、久しぶりに石田衣良の小説を買った僕ですが。
僕の場合は、理系の学部卒。卒業研究でやるような実験室の仕事は望んでも存在しません。(マスター卒以上の人を採用するそうです。)でも、無理を望まなければ、推薦入学のような就活で、とりたてて七転八倒した覚えはありません。
小説は、私立のトップの大学がモデルの様子です。ですから、公立の大学ではだいぶ様子が異なるでしょうし、マスター卒や専門性の高い勉強をしている人たちも異なるでしょう。さらには、大学以外の学校の人の場合はもっとだいぶ違うでしょう。私立理系の僕の場合とも、随分と異なります。
しかし、小説は、面白く拝読しました。
 
ハイライトは、関東テレビの最終面接で失敗し不合格となるエピソードでした。
挫折をどのように乗り越えるのか。人それぞれの性格が反映されるシーンです。
大別すると二種類いると思います。
恨みに思い、敵と認識し、戦いを決意する人。
それとは対象的に、自分の課題として認識し、自分でできる対処法を考える人。
この二種類の人間の間には、深くて大きな溝があります。
僕が最初に就職試験を受けた大手化学薬品メーカーで無謀にも研究職を希望し不採用を食らった際、学科長に訓示をうけました。
「挫折の無い人生は危うい。徳川家康三方原の戦いで武田信玄にこっぴどく負けたから、その後に天下が取れたんだ。」
と。
挫折を成功に導けるのは後者のタイプです。
この小説のヒロイン水越千晴も後者のタイプです。
失敗の原因を分析し(本人が分析するのではなく、地の文で解説されます)いくつか学習し、最終的にはほかのものがうらやむような就職先から内定を二つもゲットします。
挫折の原因を他者に求めて「悪いのは社会。」などと結論する人は、挫折がその後の生き方にいかされません。
不採用を受け取った後、逆転劇までの千晴の変化をどう読むか、がこの小説の味わいになると思います。
今で言えば、少し盛って「この本読みました。」と書いた、失敗のネタについて。
「ずうずうしく適当な感想でもいっておけば合格だったんだろう」
と言う良弘に対し、
「あんなにつまらない本で見栄を張ったわたしが悪いんだし。」
と、自分の中で整理しています。
 
こういう人と一緒に仕事をしたいな。と僕は思いました。
全ての不具合の原因を他者に求めて、自らは唯我独尊を装い、ハッタリ、口八丁手八丁でうまく泳ぐ人も、
正直に実力で勝負する人も、
就職した後のそれぞれの人生は、うまくいく場合も、失敗する人もあり、一概にどちらが良いとは言えません。
会社では、ハッタリが効く人が実績評価も高く、出世する傾向にあるようです。つまり、そこそこ出世した人は皆ハッタリが効く人です。が、評価されなくてもまじめに仕事に取り組んでいる人もいるはずです。(はったりが利くのは、実効性のある仕事をしている人がいるからです。)
このバランスをどう取るかは、もっとえらい経営者層の手腕次第ですので、ぼくらにはなんともすることはできません。それぞれの会社の特徴って、この二種の人間のバランス具合によるところが多いようです。
 
現場で働く自分としては、千晴のような人と一緒に働けたら気持ちが良いだろうな、と思います。
世の中にはいろんな人がいます。外に出れば七人の敵がいると言いますが、正直に実力で勝負する方向に切り替えた、千晴のような人となら仕事も楽しい、と思いました。

2019年 3月10日
No. 603