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受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 587 本当は怖い動物の子育て/竹内久美子著 を読みました。

本当は怖い動物の子育て (新潮新書)

本当は怖い動物の子育て (新潮新書)

 

生物学の最新の研究成果と、統計データを元にネグレストの予防を考察した一冊です。

読み終えてまとめると上記のような表現になりますが、
本書の大部分は、動物のお話です。
動物の子育てを参考に、人間の子育てを考えてみよう、が趣旨です。
大変興味深い読書となりました。
目次を引用しながら、本書をご紹介します。
はじめに
本書の趣旨を説明しています。
第1章 パンダの育児放棄
パンダは、双子を生む頻度が高いそうですが、片方は育児放棄され死に至るそうです。
第2章 クマの産児調整
冬ごもりまでに得られた食べ物の質や量が少ないと流産してしまったり、通常2~3頭生むところ、1頭しか生まれなかったらやはり育児放棄して死に至らしめるそうです。
第3章 ハヌマンラングールの子殺し
ハヌマンラングールは、ニホンザルと同じオナガザル科のサル。群れのオスを追い出した後釜の雄が、追い出したオスとメスとの間に産まれた乳幼児を殺すことが初めて確認されたサルとして有名。
この章では、他のサル、ネズミ、リス、日本人にもなじみの深いバンドウイルカの子殺しの例も紹介されています。
第4章 ラッコの暴力行為
ラッコの雄が交尾に際し雌に噛みつく事を紹介しています。人間の「ショート・ヴィジット効果」と併せて説明されています。
第5章 タツノオトシゴの自己改造
雄が卵をふ化させるタガメ(昆虫。別の雌が雄が世話をしている卵を破壊することがある)、
タツノオトシゴ(魚類。雄が卵をふ化させる。相手が好みかどうかによって、ふ化させる卵の割合を調整している!)
の生態を紹介しています。
第6章 タスマニアデビルの兄弟殺し。
20~40頭生んで、育てるのは4頭だけ。
あわせて猛禽類の兄弟殺し、チンパンジー、マグロの共食いも紹介しています。
第7章 オオジュリンの浮気対抗術
オオジュリンホオジロ族の鳥。巣の中の卵が浮気の結果が多数を占めると、雄は給餌行動の手抜きをする。自分の子供(の卵)が少ない場合は、巣を放棄する。
ここまでが、動物についてのお話です。
 
「動物のお話」
と聞くと「人間が忘れてしまった同じ種での平和的な助け合い。」「家族愛」などを期待してしまいがちですが、本書での「動物のお話」は、全部同種殺しの話です。動物に於いて、同種殺し(ときに共食い)は珍しいことでは無いのだ。と理解しました。
 
動物のお話の締めくくりとして上野動物園のパンダ出産時の報道について言及しています。
すなわち「母親スイッチ」が入った、切れたなどの表現についてです。
実際には人間の願望であり、母パンダの気まぐれで入ったり、切れたりするスイッチは無いそうです。
パンダがネグレストをするか、育てるかは、自然の条件や、子供の丈夫さなどによって決まることを説明しています。
第8章 先住民たちの虐待
ここから、人間のお話です。主に、カナダ、マクマスター大学のマーティン・デイリー(心理学教授、Martin Daly : 1944~)とマーゴ・ウィルソン(心理学教授、Margo Wilson : 1942 ~ 2009)の研究成果の紹介です。
二人のコンビは児童虐待の研究が有名です。
日本でも翻訳され出版されています。
「人が人を殺すとき―進化でその謎をとく」(マーティン・デイリー、マーゴ・ウィルソン著、長谷川真理子長谷川寿一訳、1999/12 新思索社
人が人を殺すとき―進化でその謎をとく

人が人を殺すとき―進化でその謎をとく

 
「シンデレラがいじめられるほんとうの理由 (進化論の現在)」(マーティン・デイリー、マーゴ・ウィルソン著、竹内久美子訳、2002/10 新潮社)
シンデレラがいじめられるほんとうの理由 (進化論の現在)

シンデレラがいじめられるほんとうの理由 (進化論の現在)

 
この研究の合間を縫って、行われた研究=伝統的な生活を続ける民族の間引き(嬰児殺し)の研究のご紹介です。
ちなみに、本書では触れられていませんが、日本で初めて〇歳児死亡率ゼロを達成した村を紹介したNHK「そのとき歴史が動いた」~乳児死亡率ゼロ・ある村の記録~(2007年9月19日(水)NHK総合
コミックになっています。「NHKその時歴史が動いた コミック版 生命の守護者編 」(NHKその時歴史が動いた」取材班著、三堂司、井出智香恵、小だまたけしながいのりあき、富沢みどりイラスト、2008/8、ホーム社漫画文庫)
では、達成前の乳児死亡理由の一つに「経済的理由」が挙げられていたのを聞いた記憶があります。昭和の日本です。
伝統的な民族では、普通に間引き(出産後の嬰児殺し)が行われていることから、人類の長い歴史でも(つまり、僕たちの祖先も)普通に間引きが行われていたことが想像されました。
第9章 赤ちゃんか、”精霊”か
主に2009年にNHKで放映されたドキュメンタリー 劇場版としてDVDも発売されています。「NHK-DVD ヤノマミ~奥アマゾン 原初の森に生きる~[劇場版](国分拓監督、コロムビアミュージックエンタテインメント2010/8)
のディレクターが放映できなかった場面も含めたヤノマミの風習を記した「ヤノマミ」(国分拓著、日本放送出版協会2010/3、新潮文庫2013/10)
ヤノマミ (新潮文庫)

ヤノマミ (新潮文庫)

 
ヤノマミ

ヤノマミ

 
ヤノマミ

ヤノマミ

 
からのお話。
加えて、アマゾン川対岸の部族の取材での成果を紹介しています。
間引きをするときの判断基準が、ここまで見てきた動物の子殺しが起こる際の原因のどれかです。
やはり人間も生物としての基本原則には影響を受けるのだな。と理解しました。
第10章 母親たちは進化したか
先に取り上げたマーティン・デイリーとマーゴ・ウィルソンの研究成果に加えて、

厚生労働省審議会・研究会等 |厚生労働省

社会保障審議会 (児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会) |厚生労働省

の調査データの解析結果を紹介しています。

むろん、今では犯罪として扱われるわけですが、児童虐待が起こるケースが、第9章で紹介された伝統的な生活をする民族で間引きが行われる時と同じ状況であることに衝撃を受けました。
第11章 壮絶事件の根と芽
最後に、近年ニュースで話題になった児童虐待事件を、本書で今まで扱った社会生物学的に解釈し、遠因、および予防法を考察しています。
むろんほとんどの家庭では児童虐待は無いのだろうと思います。
でも、里親/里子のケースでの、散見される子の退行で困らされた果ての事件などを読むと、
今まで読んだ生物学的理由が背景にあることを念頭に置いた予防方法の考案が必要だと痛感しました。
おわりに
最後は中国の少数民族の社会を紹介して終わりです。児童虐待が決して起こらない婚姻形態がある民族を紹介しています。
一夫一婦制でも、一夫多妻でもありません。本書を読んで希望がわいたエンディングでした。
2016年2月11日
No. 587