受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 656 サイコパス / 中野信子 著 を読みました。

とんでもない犯罪を平然と遂行する。ウソがバレても、むしろ自分の方が被害者であるかのようにふるまう……。脳科学の急速な進歩により、そんなサイコパスの能の謎が徐々に明らかになってきた。私たちの能と人類の進化に隠されたミステリーに最新科学の目で迫る!
  カバーのそでを転記  
読んで良かったと思いました。
良かったと思った点は、主に下記三点です。
  1. レッテル張りとしての「サイコパス」ではなく、犯罪を犯す性質の病気、または障害としてのサイコパスが解説されています。
  2. 罰を与えて反省させてもサイコパスの性質は改善しない、ということ。
    その一方で、サイコパスは他人に罰を与えることを好む。と言う矛盾した性質の説明。
  3. 高い能力がある、と言われることもあるようですが、
    実際の所、高い能力とは、周囲を勘違いさせる能力だけに限られたものであること、
    すなわち組織には不要であることを、著者自らの経験をトリッキーな手法で紹介しつつ説明している点です。
第4章「サイコパスと進化」が僕にとっては白眉でした。
人口の約1%がサイコパスならば、サイコパスにはBC(Biological Correctness: 生物学的正しさ)があるはずです。平たく言うと、存在に意味がある。少数派なので、万人に求められる性質ではないと思いますが、この程度の割合で存在が必用とされる性質である、と言うことです。
手元に2010年に劇場公開されたヤノマミのDVDがあります。
冒頭をすこし見返しました。
冒頭で嬰児遺棄の短いカットを入れた後、取材者(おそらく日本人の取材班)に対して虚勢を吐いて威嚇する男の様子を写しています。次のカットは、日が高いうちに大量のブタを村に持ち帰る大人たち。次は長いつるが村に持ち込まれ、男女に分かれて三時間も綱引きに興じ、三日月の夜に歌って踊る村人など。
話題になった間引き以外に、
サイコパス的虚勢張り、
短時間労働で豊かな様子、
余暇が多い様子が紹介されます。
中野信子のこの本では、対象的な南アフリカカラハリ砂漠の狩猟採集民「クン族」の生活と子育ても、比較例として紹介し、
サイコパスが許される(または歓迎される)社会のありかたと特性がよくわかったように思いました。
たいへん説得力がありました。
テレビに出てる人ですから、雑に書いた本かも知れぬと警戒しながら読みました。しかし、この警戒は杞憂でした。親切で丁寧な著作でした。
いろいろ配慮しながら、丁寧に今までの経緯、現時点での研究成果を紹介した一冊です。

脳科学と従来の心理学を比較しながら、社会学的な対処法への貢献度合いを説明されているのも面白く感じました。

2021年 6月23日
No. 656