受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 632 騙し合いの法則~生き抜くための「自己防衛術」 / 竹内久美子 著 を読みました。

騙し合いの法則 生き抜くための「自己防衛術」

騙し合いの法則 生き抜くための「自己防衛術」

 
帯のコピーは、
遺伝子にまつわる謎を軽妙に解く
あらゆる動物の集団行動の法則から、
何かと生きづらい現代社会で
人間は本来どう振る舞うべきなのかの
実用的指針を導き出した新境地!
です。
amazonに投稿したレビュー
を転記します。

昆虫から、鳥類、霊長類までの様々な生き方の多様性を(主に繁殖戦略で)紹介した一冊です。

人間として、僕は次のように理解しました。
  1. 自然界の動物社会は、人間のお手本になるような、平和で、幸せな人間関係(と言うか、動物関係?)で成り立っているわけではない。
  2. 水平で平等な社会よりも、順位が決まっている(ヒエラルキーが確立している)方が争いが少なくて良い。
  3. 争いごとは、徹底的に勝利することを目指すと、とんでもないことになる。ほどほどで止める工夫が必要。
帯のキャッチコピーに
人間関係の本能的課題を解き明かす「サイエンス自己啓発」誕生!
と記されています。

「自然界の動物は平和で、幸せな社会を築いている」
と昔ながらの空想的なファンタジーを信じている人には、近年の動物学の成果から、それが夢物語だった、と知ることができます。
が、いわゆる「自己啓発本」ではありません。
「×○しなさい。」とか、
「出世したければ×○を食べなさい。」などと、
上から目線で、叱ってくれるような本を期待すると、それは期待外れになります。
竹内久美子は、学会で発表されるような研究成果を紹介するライターです。)

現代社会を生きる直接の教訓を得ようと期待するよりも、
「動物もいろいろ大変だなぁ。」
と気休めを期待する程度の方が良いと思います。

ハッタリ(と言うか、嘘つき)の人が大声で無理を通して、道理を引っ込めていたら、
ちゃんと「お前はオカシイ。」と言うべきだと思います。(いわゆるBroken Window Theory)
が、大言壮語のほら吹きが幅を利かせている社会(会社で出世していたり、地域の顔になって威張っていたりする社会)は、それほどまれではなく、狭い人間関係で成り立つ組織では、よく見かけるようです。(いや、結構大きな組織でも)

自らが「負けちゃイケねぇ。」と、田舎のツッパリ(女ならスケバン)のように振る舞う必要は無いのですが
「なんで、こんなヤツが淘汰されずに、いつの世でも一定数いるのだろうか。」
と言う疑問の答えが見つかったような気がします。

少なくとも
「田舎のツッパリは僕の美学では無い。」
と思っている人には
「それでも良い。」
と説得力のある一冊だと思います。

と言うわけで、自分の生き方の参考にすることは期待せず、
いろいろな動物のいろいろな生き様を楽しく読む
と、面白い本です。

ニワトリの順位付けは、著者の今までの本でも何回か語られていることですが、
チンパンジーの順位決定がうまくいかずに抗争が長引いたときの悲惨な例を紹介した
第四章「相手を孤立させてしまうのは自爆行為」
がとても強力なインパクトがありました。

以前の本でも(※)アフリカのチンパンジーが群れ同士の抗争が、殺人どころか、皆殺しに発展した例を読みましたが、群れの中で、順位が決まらないために、殺し合いに発展した本書で紹介されたエピソードは衝撃的でした。
(※)「そんなばかな!遺伝子と神について」(文春文庫1994/3/10)
遺伝子と神について そんなバカな! (文春文庫)

遺伝子と神について そんなバカな! (文春文庫)

 
の第四章「利己的遺伝子(セルフィッシュジーン)のさらなる陰謀」第二節「チンパンジー仁義なき戦い
十頭で新たな群れを作って独立。元の群れから、殺人チームが送り込まれる。独立群れのオスが一匹で居るところを見つけて捕獲。二人で手と足を抑え、もう一人が胴体の上でジャンプを繰り返し、肋骨を折り、殺害。これを皮切りに独立グループが全滅するまで、一頭ずつ暴行殺害を繰り返した。
1974ジェーン・グドール(英1934~)の報告だそうです。
できれば犯罪のない、平和な世の中に住みたい。
平成は自国は戦争をしない30年で終えようとしていますが、
テレビをつければ、辛いニュースばかり。我慢できません。
争いを回避する方法を(本書で紹介されているいくつかの生物のように、メスのふりをする、とか変な方法でも良いので)いろいろ考えてみながら、気を晴らすことができたような、できなかったような一冊で、一応気が紛れました。
少なくとも凄惨な事件のニュースを見続けるよりは、この一冊を読んだ方が良いです。
2019年 4月25日
No. 632