No. 418 世界の歴史1人類の誕生 / 今西錦司・池田次郎・河合雅雄・伊谷純一郎 著 を読みました。
世界の歴史 全24巻の第一巻。一九六八年に河出書房から刊行されたシリーズの文庫版です。
しかし、僕は生物学の本として「今西錦司」の名前に惹かれて読みました。
- 十二の章立ては、以下の通り。
- 現代人の祖先をもとめて
- 大動物の狩猟民たち
- 二〇〇万年前にさかのぼる
- 遠い親戚との邂逅
- 人類誕生の決め手
- サル社会に原籍をもとめて
- ゴリラの社会との比較
- 人類進化への前奏曲
- 人類社会の黎明
- 農耕はじまる
- 牧畜はじまる
- 文明への序曲 1.~5.までは池田次郎、6.、7.は河合雅雄、8.、9.は伊谷純一郎が原稿を書き、今西錦司は、10.~12.の原稿と全体の監修をしたそうです。
池田次郎執筆箇所で類人猿から現代人までの進化の歴史を振り返り、河合雅雄執筆箇所ではニホンザルとゴリラの社会構造を紹介し、伊谷純一郎執筆箇所ではより人間に近いチンパンジーの群れの構造から僕たちの祖先の生活の様子を、今西錦司執筆箇所では、世界の歴史第一巻にふさわしく、人類が国家を形成するまでの経緯を考察しています。
最初に出版されてから三十年以上経ち、もちろん現在の通説と異なるところがあります。特に類人猿の系統樹は、長い論争に決着が付きつつあり、ラマピテクス以来混血を繰り返しながら現代人に至る本書付属の系統図は否定されつつあるようです。
(僕が参考にしたのは、
から、社会連携/産学連携のなかのタブ遺伝学電子博物館
>遺伝学とは
>進化と遺伝
>DNA人類進化学
、3. ヒトとサルと分かれた日、4. 現代人の起源の記述です。)
2022/3/12追記:さらに現在は、旧石器時代のホモサピエンス近縁の同時代の人類(ネアンデルタール人など)と交配可能で、文化的には絶滅したかもしれないけれど、遺伝的には、現代人に特定の割合で残っていると理解されているらしいですね。
しかし、この本は、長い年月を超えてなお、読むに値する、充分な価値があります。
序盤では、進化論の発展が紹介され、また霊長類の全体象が把握できます。
ニホンザル、ゴリラ、チンパンジーの群れ観察を紹介した6.~9.は、日本が世界に誇る霊長類学のダイジェストです。ニホンザルの群れによる性差は、なんだか僕が感じていた人間の性差にも共通するところが多々あり、感慨深いです。
終盤では、主食として麦を選んだ民族の、その労働生産性の高さに言及しているところが興味深く感じました。本書ではふれられていませんが、米の場合、労働生産性は低いものの、土地生産性が高いのだと、高校の(なぜか地理の)授業で習ったことを思い出しました。
読書の域を超えますが、麦を選んだ民族には「土地は欲しいが、人はいらぬ」、米を選んだ民族には「狭い土地だが、人手が欲しい」という特徴があるとすれば、ここから民族の特徴が発展したようにも思えました。
2004年 6月12日
No. 418
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