No.502 妄想銀行/星新一 著 を読みました。
「人民は弱し 官吏は強し」(文藝春秋1967/03)
と同じ年、六月に新潮社から出版されたショートショートの文庫版です。
この一冊については、全作品の感想を簡単に述べてみたいと思います。
- 保証
- 保険に加入して月賦販売のクーラーを買った男の話。平和な日本の役立たずな男の使い方ですね。
- 大黒さま
- 元旦の夜。エヌ氏のもとに福を授ける大黒さまがやってきた。僕のもとにも来て欲しいです。
- あるスパイの物語
- 某国スパイであるエヌ氏の任務とは? たしか日本でも(第二次世界大戦までは)スパイにすっごくお金を使って、そのお金で莫大な財産を蓄えた人もいましたよね。ロッキード事件で話題になった人とか。
- 住宅問題
- エヌ氏が暮らす広告付き住宅。すっごく安くて羨ましいですね。
- 信念
- 「善良であっては、たいした人生をすごすことができない」この信念のもと、大きな会社に就職し、集金係に配置された男の野望の物語。僕の信念は、「一般的に善良な人は、善良であることに満足しているので、善良であることの不利益に不満を述べないものだ。善良であることの不利益に不満を述べる人は、善良な人ではない。」なのですが、この一編では、僕の信念を覆されました。
- 半人前
- 土建会社を経営するエヌ氏が遊びに来た温泉地で出会った青年。痛快でした。まさか、半世紀経った後に「DEATH NOTE デスノート」(小畑健著、大場つぐみ原作、集英社ジャンプコミックス2004/4/2/~)
- 変な客
- 高級美術品の店主の受難。強盗を迎えて……。これも痛快に楽しめました。
- 美味の秘密
- 商事会社を経営するエヌ氏の生きがいは美味を口にすること。社員が見つけてきたすばらしい料理を出す店に出向くと……。パラドックスが見事に感じられる物語でした。
- 陰謀団ミダス
- 不景気な世の中正直だけが取り柄の青年は就職口を探すが、なかなか見つからない。そこで、陰謀団に所属することになるのですが。「必要悪」って本当にあるのでしょうか。皆さんがご覧いただいているこのウェブサイトを伝えるネットワーク社会上では、「善意のハッカー」と言う、雇われてハッキングを試み、セキュリティーの検証をする人が現実に存在しているそうです。
- さまよう犬
- 毎晩見るさまよう犬の夢。素敵な運命です。
- 女神
- 人形の容姿に羨望と嫉妬を併せ持つ道子。そこに現れた女神への願い事。人間って良いな。と口ずさみたくなる一編でした。
- 海のハープ
- 「愛」をテーマにした秀作です。「愛」とはなにか。これですよね。
- ねらった弱味
- 人の弱味ほど、上手に使えば金になるものはない。そう、上手くいくのでしょうかね。
- 鍵
- 拾った鍵の魅力に取り憑かれ、一生をその鍵穴を探すことに捧げた男の物語。この一冊の白眉です。何を幸せな一生と考えるかは、人それぞれだと思うのですが、その一つの形が提示されているように感じました。
- 繁栄への原理
- 繁栄を謳歌する星へ到着し、その秘訣を探ってみると……。やっぱり、金を使うときにはよく考えてから使いたいものですね。特に高額な場合は。
- 味ラジオ
- ポータブルラジオのように、携帯出来る「味」が開発された。これ、改良してラジオではなく、個々人が好きにプログラム出来るように改良すると、もっと普及しますね。
- 新しい人生
- 退院した三郎は、今までの生活に戻れません。だけれども、選ぶ事が出来るとすれば、僕は彼のような人生を選んでみたいような気もするのです。
- 古風な愛
- 具体的な感想はネタバレになるので書きませんが、このテーマは今でも時々マスコミでも話題になります。ここまで愛情を注いで考えるべきテーマだよな。と、考えを改めた想いです。
- 遭難
- 宇宙の遭難者エヌ氏を救ったものとは? 遭難者にもっとも必要なものの提案がなされているように案じました。
- 金の力
- 「なにか、うまい方法があるはずなのに。」と残念でならない読後感でした。
- 黄金の惑星
- 黄金の惑星から発せられたS.O.S.。救助に向かうエヌ博士と助手のエヌ夫人。僕もきっと、エヌ博士と同じ運命を辿るのだろうな。と思いました。
- 敏感な動物
- 沈没する船からは、いつのまにかネズミが脱出していなくなる。そんな都市伝説でも、目の当たりにすれば対処したくなるもの。僕も一緒ににげますよ。
- 宇宙の英雄
- 宇宙時代。どこかの星のS.O.S.に万難を排して救助に向かった男。ストーリー展開豊かなショートショートでした。
- 魔法の大金
- 怠け者のエヌ氏が悪魔からもらった大金。もっと、うまくやれば良いのでしょうが、怠け者は、そこまで気が回らないのでしょうね。
- 声
- シーズン・オフのホテルへ静養を求めに来た青年の受難。悪いことは出来ませんね。
- 人間的
- 人間的なロボットを求めたアール氏にエフ博士が貸し出したロボットとは? ロボットに人間性を求めた皮肉な結果に唖然としました。
- 破滅
- 犯罪組織のボスが、究極の薬を飲んで罪を逃れる。が、しかし。「罪」と「罰」を考えさせられる側面もありました。
- 博士と殿さま
- タイムマシーンを発明した博士と、助手が過去に旅行して殿さまに出会った。殿さまの嗜好から、僕たちが有り難がるものの価値を考えました。
- 小さな世界
- 「金に糸目は付けない」買い物が出来る人が選ぶマイ・カーとは? お金の使い道を考えさせられました。
- 長生き競争
- どのメーカーのドリンク剤が、もっとも効くのか? 長生きの意味を問いかける作品でもありますね。
- とんでもないやつ
- 原始時代を生きるなまけものの「グウ」は、実はとんでもないやつだった。彼さえいなければ、僕たちは今頃もっと平和だったのでしょうね。
- 妄想銀行
- 最後は表題作。患者の妄想を預かる装置を開発した医者が開業した「妄想」を預かる銀行。愉快でした。
2008年6月8日
No.502