No.533 韓非子/冨谷 至を読みました。
「実力のない部下のお中元やお歳暮につられて、あなたの役に立つ優秀な部下をないがしろにしてはイケマセン。例えばそれを防止するには、あなたが熱中している余暇の過ごし方などを簡単に部下に披見しないことです。」
と言うような、佞臣を退ける術を解いたもの、を期待して、インターネット本屋さんを探しました。一冊で手軽に読めるのはこの本。早速購入しました。
本書は韓非子 全五十五巻の訳ではありません。
訳では触れることの出来ない、近代の西洋思想家カントやマキアベリ、ホッブズと比較した第三章「韓非と法家思想」のIV 政治と君主、V 韓非思想のエッセンスが、特に興味深く、考えるところ多かったです。
また、第一章「殷周から春秋戦国へ」では、古代中国の国家形成に至る歴史の概略にふれることが出来ます。
第二章「模索する思想家たち」では、孔子に始まり、孟子、荀子と続く儒教から法家の旗手である本書の「韓非子」へ、その成熟する社会の求めに応じて登場してくる思想家、哲学者の変遷を、解りやすく復習できました。
「復習」と言うのは、高校の古文で習って、言葉だけは記憶のあった「性善説」「性悪説」の概略を改めて確認出来たのがうれしかったと言うことです。本書では、さらに、そのどちらの議論にも参加しない韓非子が、なぜ「性善説」「性悪説」の議論に熱中する後世の儒教思想家を尻目にその後の秦や漢の政治手法として採用されたのか。その背景を鮮やかに示されていて痛快でした。
本書の主題ではありませんが、韓非子からの故事成語「矛盾」や「株を守る(待ちぼうけ)」の解説と、韓非子がどのような文脈でこのアナロジーを用いたか、の雑学などもグッドでした。韓非子を悪用して滅んだ秦の第二代皇帝・胡亥の「馬鹿」語源説の紹介もおもしろかったです。
以上は、電子書籍と紙の書籍のハイブリッド型総合書店hontoに「楊耽」の名で投稿した書評を元に書き直したものです。
2010年11月13日
No.533