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受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 564 雪国/川端康成 著 を読みました。

雪国 (新潮文庫 (か-1-1))

雪国 (新潮文庫 (か-1-1))

 
よちよち文芸部(コミック:久世番子2012/10文藝春秋(エロ小説として)紹介されていたのを目にして、読み返しました。
よちよち文藝部

よちよち文藝部

 
少し前に冒頭の
国境の長いトンネルを抜けると
をなんと読むか、を読書友達と話題にしたことはあったのですが通読したのは、三十年振りです。(ところで、みなさんは「こっきょうの」と読みますか?それとも「くにざかいの」と読みますか?)

 

僕が最初に読んだのは中学生の頃。一通り読んだつもりでした。フィナーレ近くの縮に関する記述をよく覚えていました。
ですが、今回読んで「当時の読書は、読んで理解したとは言い難かった。」と悟りました。なるほどよちよち文芸部で久世番子が解説しているとおり、この小説の魅力を十分に味わうには「性愛小説」の側面を理解する必要があり、中学生だった僕には無理だったろうと思うのです。
例えば、冒頭の主人公の島村が駒子に会いに行く二度目の車中。島村は最初の、一夜限りの情交を思い出して、
結局この指だけが、これから会いに行く女をなまなましく覚えている
と人差し指を眺めています。
これは、自分一人がそう思っているだけだから、まだ、理解しようと思えば、理解出来るような気もします。人差し指が覚えているのは、例えば駒子と握手した手ではなく、撫でた頬でもなく、胸でもなく、と言うことは、理解出来てもおかしくないと思います。ですが、宿に着いて、久しぶりに顔を合わせた第一声で
「こいつが一番よく君を覚えていたよ。」と、人差指だけ伸した左手の握り拳を、いきなり女の前に突きつけた。
島村の態度については、ある程度「自分が、恋人に言ったとしたら、どうなるか」と比較して想像できなければ、二人の関係も理解できないと思うのです。
と、言うわけで「中学生には無理だよな。」と思ったわけです。
いや、あるいは、想像の中だけで、二人の関係を理解する中学生もいるかも知れませんが。

 

ちなみに、僕が「理解すべし」と思ったのは、次のとおりです。
久しぶりに会った人に対しては、たとえ既に情事を交えた恋人相手であっても、先ずはせめて「ご無沙汰したね。」と言う程度の挨拶をするべきだと思う。非常識と受け取られかねないリスクを犯して、島村は、通常の挨拶を省略した。そして、前回の情事についての記憶で語りかけた。
この挨拶は、相手によっては、自分に対する「情事だけの相手だ。」との無礼な宣言として受け取りかねないリスクがある。が、相手は、無礼な側面には目をつぶり、親愛の表現として認識するだろう、との自信がある。
島村の自信どおりに、駒子は無礼な挨拶を受け入れ
「ええ、分かってるわ。」
ふふと含み笑いをしながら、島村の掌を拡げて、その上に顔を押しあてた。
この二人のやりとりは、情事が片方の自己満足ではなく、お互いに満たされたものだったことを示している。また、それぞれが情事の初心者では無い事も示している。背景には、二人とも、それぞれ別のところに配偶者がいて、二人が会わない間には、他の人と情を交えている事を了解していることが挙げられる。もしかしたら、その満足は、二人が会わない間に交わした他の誰かとの情事と比較した結果かもしれない。その上で二人にはお互いに充足した営みを交わせる相手であるとの信頼関係が築かれている。
だから、無礼であっても、記憶にあることを伝えることが、島村から駒子への愛情表現となるのだ。

 

以上のような具体的なラブアフェアを含めた恋人関係にある二人の感情を念頭に置きながら、幻想的な情景描写の見事さに舌鼓を打ちつつ、ハッピーエンドが期待出来ない物語を味わう事が出来るのは、やはり、ある程度の異性関係に経験がある大人なのでは無いのかな。
と思ったのが、今回の僕の「雪国」の読書でした。

 

なお、僕が今回も読んだ新潮文庫は、1973年改版のものです。巻末に竹西寛子による解説「川端康成 人と作品」が収録されています。感動しました。特に伊豆の踊子が読者の心を捉える点についての分析には、心の中で何度も膝を叩きました。

人生初期のこの世との和解

ジョブナイル小説でも頻繁に取り上げられるテーマです。僕が何故、このジャンルが好きなのか。この解説で、ようやく理解しました。川端康成作品の場合は、文学作品として際立っているわけですが、僕は、他の表現でも好き。例えばエヴァンゲリオンも(最初のTV版は特に際立って)これを取り上げているな。と分析してみると味わいもひとしお。荒唐無稽なロボットものの中に、思春期の自己嫌悪から抜け出そうと足掻く少年、少女の苦労を、「がんばれ」と応援しながら見るのが僕の鑑賞方法です。ちなみに、ガンダムではアムロララァに「あなたには、恋人も家族もいない」と指摘されるシーンが、、、脱線しすぎなので、ここまでにします。

 

2014年12月 8日
No.564