受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 563 草食男子0.95の壁 動物行動学的オトコ選び/竹内久美子 を読みました。

草食男子0.95の壁―動物行動学的オトコ選び

草食男子0.95の壁―動物行動学的オトコ選び

 
2009年ユーキャン新語・流行語大賞のトップテンに入賞した「草食男子」を動物行動学的に解説した一冊です。
後述しますが(※)深澤真紀が命名した「草食男子」とは、本来は単に「据え膳食わない男」ではありません。第二次世界大戦後の日本が「男女平等」となって後、長く言われていた「異性を、先ずは一人の人間として扱うべし」を素直に体得した最初の世代(の男性)です。ですが「草食男子」は命名されたその後、意味が変質し単なる「据え膳食わない男」と理解されるようになりました。本書では、主に据え膳食わない男としての草食男子について、動物行動学的にどう扱うべきか、を女性向けに解説した一冊です。
「女性向け」と記して気が付くのは、竹内久美子著作が「女性向け」と言うのが意外だ。と僕が感じたことです。僕は、初期の竹内久美子著作品(「浮気人類進化論」晶文社1988/05
、後に文春文庫(1998/11/10)に収録
を高校生の時に友人から勧められて読んで以来のファンです。
小学校で家庭科(料理や裁縫)が男女共学になった最初の世代である僕は、「女性も男と同等に扱うべし。」と説教されながら育ちました。男女平等教育を真に受けて育った僕は、性差については、意識して無視するように習慣づけられていました。
そんな僕にとって、生物学で進む、人間も含めた繁殖戦略の性差研究成果の解説が新鮮でおもしろく感じられました。おそらく僕に勧めた友人も含め、理系の男子読者は同じように生物学的な男女の行動、性癖の研究結果をおもしろく思っていたのではないかと想像します。
一方、竹内久美子作品が文庫になった後、その解説では、作家(つまり、文系)の男性が、まるで浮気を正当化する理論を得たと言わんばかりの、自分に都合の良い解釈でした。
僕は「なんで、理解していない者が解説を書くのだ。」と憤慨した記憶があります。しばらく時を経て、そのように読む男が竹内久美子作品を支えているらしいと気付き、「竹内久美子作品は男性向け。」と理解するようになりましたが。
同様に、長らく女性にとっては、竹内久美子作品は男の浮気を正当化するエセ科学本として認識されていたのだろうな、と想像します。
本書は、巻末の「あとがきにかえて」によると、著者の初の試みとして、口述を別のライター(栗林貴子)が草稿を作成。編集を経て、著者が手直ししてできたものだそうです。
これを読んで「なるほど、ライターが女性だから、こういう指向になったのか。」と納得しました。
本書は「草食男子」を不可解に思う(娘が結婚すると言えば、彼に向かって「家事を女性の役割と決めつけてはイケマセンよ。」と説教をしたくなる)団塊ジュニアより年上の女性向けの本です。

 

 

本書は、先ず「草食男子」について説明した第1章「彼に、その価値がある?」では、「種の保存」が生物学的には過ちであることも紹介し、第2章「チンパンジーは草食化しない」で、人間以外の動物の例も紹介しながら、一般的に男性の生物学的特徴を解説します。
第3章「その男は損か、得か」で現代の日本人男性を例に挙げながら、やはり生物としての「男性」である事を示します。
第4章「世界は肉食が主流」では、日本人以外の男性にも視野を広げ、第5章「草食の国、どこへ行く?」で振り返って「草食男子」が流行語となるような日本の(男性の)現状について考察します。
本書で紹介している生物学の研究成果は、今までの作品でも紹介されているものですが、女性向けに表現すると「こんなふうになるのだなぁ。」と異なる趣に感じるところの多い一冊でした。
かつて、生物学がウーマンリブの女性運動に喜んで迎えられた理想的な平和社会の模範だった経緯については、次作「女は男の指を見る」新潮新書(2010/4/20)でさらに詳しく解説されています。

 

(※)「草食男子」の初出は、深澤真紀が2006年に日経ビジネスオンラインで連載開始した「U35男子マーケティング図鑑」です。光文社知恵の森文庫で読めるようです。
草食男子世代―平成男子図鑑 (光文社知恵の森文庫)

草食男子世代―平成男子図鑑 (光文社知恵の森文庫)

 
U35男子は、35歳以下の男性を意味します。2006年連載開始当時の35歳以下ですので、1970年以降に生まれた団塊ジュニア世代以下。当時の若者を理解するためのコラムです。 当コラムは、読み応えのある、中堅ビジネスマン向けのマーケティングコラムで、草食男子は第5回で取り上げられたものです。
かつて、男性にとって、恋愛とセックスは「積極的」(ガンガンいく)か、「縁がない」(もてない)かの、大きく2つに分かれていました。
から始まる本章は、当の草食男子の解説に加え、対応する同年代の女子の姿勢にも触れており「据え膳食わないオトコなんて居ないんだよ。」と説教をしてしまいがちなオジサンが若者を理解する手助けになりそうです。
当のU35男子と、オジサンとの世代の隔たりは、先に記したように小学校で家事を教える家庭科が男女共学となるあたりだと思います。U35は中学校でも男子の「技術科」、女子の「家庭科」が一つになった「技術家庭科」で共に学び、高校でも、男子だけ週4時間の体育が女子では週2時間で、残りの2時間を女子だけの「家庭科」として縫い物などをやらされていたものが一緒になった以降の世代です。
彼ら以上の世代は、結局中途半端な男女平等を生きた世代だったのだな。と逆に思います。
例えば、村上春樹ノルウェーの森講談社文庫1991/04/15)
ノルウェイの森 文庫 全2巻 完結セット (講談社文庫)

ノルウェイの森 文庫 全2巻 完結セット (講談社文庫)

 
で描写されているように、学生運動に参加する女子に向かって
「じゃぁ、おにぎり握ってきて。」
と当然のように性役割りを指示する男子がいたのだな。と思う僕は、ちょうど中間の世代です。高校生の時の流行歌シンディー・ローパー「ハイスクールはダンステリア」(原題"Girls Just Want to Have Fun")
シーズ・ソー・アンユージュアル

シーズ・ソー・アンユージュアル

 
で、「男の子はきれいな彼女が出来ると表に出さないようにするけれど、わたしは陽の当たるところを歩きたいのよ。」と主張するのを「もっともだ。」と思うのですけれども、そもそも自分に恋人が出来たとして、囲っておきたいとは思いません。ですので、ことさら男女平等を叫ぶ人が不可解なのでした。
いや、そうではなくて、団塊の世代であっても、例えば当時の僕の高校の先生が結婚して、「君は一人娘だから僕が苗字を変えるよ。」と気軽に女性の姓を名乗った人も居たことを思えば、おそらく人数の多少はあっても、意識の変化はゆるやかに進んでいたのだと思います。
意識の変革が完成されたのが、結局のところ「草食男子」なのであり、「草食男子」の異性を先ず「人間」として扱う態度なのだと思います。彼を理解出来ない人は、結局誰を見ても理解出来ないのだろうな、と思います。
深澤真紀のコラムを読むと、同年代の女性もまた、そのような男性に対応しており、ことさら女性だから庇護されるべきとか、損を被らないように常に警戒しているようなメンタリティーではないことが伺われます。
逆に(僕の経験が偏っているのかもしれないけれど)もう少し年上の、男女平等をことさら主張するインテリ気取りの女性には、現実を見ずに説教を垂れる事だけを目的としたようなトンチンカンがいました。その女性は、僕が結婚すると言うと「女の人にだけ食事を作らせてはイケマセンよ。」とか「女性も働かせなさい。」と説教したものでしたが、その説教の後の雑談(ていうか、自慢話)で池田満寿夫の講演に行ったことを(芸術にも精通しているという意味で)誇らしげに語るのを聴いて「彼女はニセモノ。小説の代表作「エーゲ海に捧ぐ」を読んでないよね。」と思うものでした。
エーゲ海に捧ぐ (中公文庫)

エーゲ海に捧ぐ (中公文庫)

 

エーゲ海に捧ぐ」未読の方に説明すると、この小説に描かれている著者本人がモデルと考えられる主人公の画家は、彼女のような年配のインテリ女性が憎むべき、旧態然とした夫です。絵のモデルである若い女性と親密にしているところに自宅の妻から電話があり、現代では破綻した婚姻関係として認識される、その妻に向けて洗濯物を送りつけた事を罵られます。彼は、妻が洗って返送することを当然としている男でした。著者本人が映画化したら、「エーゲ海」が、ホントのギリシャエーゲ海でしたが、小説の中のエーゲ海は主人公が戯れるモデルのデルタの茂みです。映画だけを見て(または映画の宣伝だけを見聞きして)あとから小説を読むと、さぞかし、落差に驚くことでしょう。

 ただし、これも、一般的に団塊の世代の女性が皆トンチンカンなワケでは無いと思います。結局のところ、説教好きの人って、説教する相手が誰であれ、よく観察、認識をせずに、とにかく説教垂れるものなのでしょう。説教好きにろくなものはイマセン。

 

と、言うところで、本書「草食男子0.95の壁」に戻りますが、本書では、当の「草食男子」について、生物学的解釈に留めておかれています。U35より年上の女性向けなので、本書ではこれで良いと思うのですが、僕は、もう一歩踏み込んで草食男子は「社会的に適応的」なのだと思いました。男女いずれも浮気が厳しく咎められ、一向に容易に離婚が出来ない現実に適応すると、男性の女性選びも、かつての女性と同様に、選ぶ側として、慎重な行動になるのだろうと思うものです。

2014年12月 7日
No. 563