受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 581 ムーミン谷の仲間たち/トーベ・ヤンソン著 を読みました。

すてきなムーミン一家を中心に北国のムーミン谷にすむ仲間たちの楽しい生活を描いた九つの短編集。ムーミントロールの親友で孤独と自由を愛する詩人のスナフキン、空想力豊かなホムサ、おくびょうでなき虫のスニフ……。国際アンデルセン大賞受賞作家ヤンソンの詩情あふれる楽しいファンタジー。
  背表紙を転載  

登場人物への理解が深まるシリーズ唯一の短編集

トーベ・ヤンソン(Tove Marika Jansson 1914/ 8/ 9 ~ 2001/ 6/27 スウェーデンフィンランド人)によるムーミンシリーズ七冊目の本。原題は"Det osynliga barnet och andra berättelser"。スウェーデン語で書かれたもので、1962年にフィンランドのシルト出版社(Schildts Förlags Ab)から発行されました。僕が読んだのは、2011年に冨原眞弓の解説付きで21世紀版として再版された講談社文庫です。
本作は小説のムーミンシリーズで唯一の短編集。ムーミン谷で活躍する妖精たちの物語です。
「はるのしらべ」スナフキン
自然の中で、作曲に精を出すスナフキン
孤独を愛するスナフキンは、他の妖精と一緒の時は、少し不機嫌です。では、スナフキンが本来、自分が好きなように過ごす時間というのは、どういうものなのでしょうか。スナフキン本来の過ごし方が描かれています。
それでも、ムーミン谷に戻ってムーミントロールに聴かせることを前提に作曲しているところが憎いところだと感じました。
「ぞっとする話」ホムサ
ご近所を冒険するホムサ。冒険の話をすると、親から「嘘つき」と咎められ、晩飯抜きの罰が与えられました。家を飛び出したホムサはミムラ族の家に飛び込みます。そこでミイに出逢います。
子供がウソをつく時、それがだれかを騙したり、何かを誤魔化すためのウソの場合(この短編でのミイのウソ)と、本人が思い込んでいる勘違い(ホムサのウソ)の場合の二種類があることを理解しました。おそらく、ミイに出逢って、ホムサもそれを理解したのだろう、と思います。
「この世のおわりにおびえるフィリフヨンカ」フィリフヨンカ
貴族で心配性のフィリフヨンカは、マナーどおりに友達をお茶に招待しますが、この世の終わりにおびえて、日常会話もおぼつきません。
悩みがある時の処方箋として「行動しろ。」と言うのを聴いた覚えがあります。この世の終わりにおびえるフィリフヨンカにとっては、とっておきのレシピとなった嵐の夜。心を囚えていた心配事から解放される結末に安らぎを覚えました。
「世界でいちばんさいごの竜」ムーミントロール
ムーミントロールが捕まえた竜の子供と、ムーミン谷のみんなのお話し。
スナフキンは、ムーミントロールや、ミイと同年代。親が親友同士の友達の設定です。(年齢順で言うと、ミイ、スナフキンムーミントロール、スニフの順。ムーミンシリーズ第4冊めの「ムーミンパパの思い出」から推測しました。)一足先に大人になってムーミントロールに気を遣うスナフキンが素敵な短編です。
「しずかなのがすきなヘムレンさん」ヘムレンさん
勤務地の遊園地が被災し、職を失ったヘムレンさん。
期せずして、ヘムレンさんが理想とする遊園地を作り上げてしまうファンタスティックな短編です。
「目に見えない子」おしゃまさん(Too-ticky)
孤児院で虐待されていたニンニをムーミンママにあずけたおしゃまさん
思うところが多い一遍です。
先ず、虐待の種類が、単に「嫌味を言いながら育てる。」と言う点。人に好かれないタイプに「人に何かを伝える時に、嫌味を用いる。」人がいます。逆に考えると、「決して嫌味を言わない」人は、好印象があるようです。子供に何かを伝える時に「嫌味」を用いると、虐待になるのではないか。と思いました。
次に、ニンニを救い出したおしゃまさんが、ムーミンママにあずけている点です。何か、せねばならぬ事がある時に、何でも自分でやろうとして、失敗する事があります。「せねばならぬが、自分ではできない。」と言う時に、「できる人を見付けて託す」必要があります。しかしながら、切羽詰まった時には、発想が転換できず、自分ではできないのに、失敗をして「せねばならぬが、できなかった」と言う自体に陥るようです。おしゃまさんの賢明な選択に脱帽しました。
もう一つは、社会的な健康の回復には「人の役に立つ。」と言う実感を持たせることだ、と言う教訓が得られました。
「ニョロニョロのひみつ」ムーミンパパとニョロニョロ
ニョロニョロの船に同乗し、旅に出てしまったムーミンパパ
ニョロニョロを理解し、自分が求める冒険と自由の本質を理解するムーミンパパの旅の過程を面白く感じました。
「スニフとセドリックのこと」スニフ
ムーミントロールにそそのかされて大事なセドリックを手放したスニフ。
またしてもスナフキンが活躍。大人から見れば、取るに足りないことでも、子供にとってはとても大切なものがある。と言うことを僕は知っているつもり。でも、それを無くしてしまった場合に、ほんとうに大切なもの(自分の命と健康)の方が大切だ、と教えなければならない。と言うことを切に感じた一遍。それムーミンママもねを上げた課題に対応したスナフキンが格好良いですよ。
ムーミンシリーズでは、おしゃまさん、ムーミンママ、スナフキンの三人が大人の役割を分担して引き受けているな。と、終盤に近づいたこの短編集で気が付きました。
「もみの木」ヘムル
突然思い立って、クリスマスを祝おうと張り切るヘムルと、冬眠期間中の出来事(クリスマス)を存じ上げないムーミン一家の物語。巻き込まれたムーミン一家が、最後まで「クリスマスって、そんなに怖いものではないと思うよ。」と理解しないにもかかわらず、クリスマスを待ち望む(冬眠をしない)ムーミン谷の住人を喜ばせる物語。
物語の設定(ムーミン一家は冬に冬眠する)と、キリスト教圏で必要なクリスマスのエピソードを上手に融合させた心温まる物語です。

2015年11月15日
No. 581