受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 572 女子大生会計士の事件簿 DX.6 ラストダンスは私に/山田真哉著 を読みました。

同じ会計事務所に勤務する、女子大生兼公認会計士の藤原萌実と新人公認会計士補のカッキーこと柿本一麻。二人のコンビが、クライアントの監査で出くわす事件に対応する経済ミステリー第六弾。第六弾にして、最終巻。完結編です。
最終巻なので、少し調整が入ります。監査ファイル1から4は、小話。常識と言うか、基本なのだけれど、ちゃんと教えてもらう機会が無いお金の話です。
監査ファイル1
<ワナを見破る女子大生>事件  投資信託の話  
萌実が大学の級友に連れられて行ったアルバイトはマーケティングと称した単なるインタビュー。しかし高給。そのワケは……、
僕も就職したての頃はよく金融商品を装った勧誘の電話を受けました。お勉強してワナに掛からないようにしましょう。
監査ファイル2
<合理的に儲けようとする大学生>事件  お金儲けの話  
物語としては、まだカッキーが新人の頃のお話し。会計士の話しを聞きたいと言うカッキーの後輩と萌実のやりとり。
最近は、個人でも比較的簡単に株の売買が出来ます。しかも自宅でPCの前に座っているだけで。そうして、働きに出るよりも短時間で、より多くの収入が得られるなら、僕もそうしたいです。いや、もっと多額のお金を手に入れる方法があります。と、カッキーの後輩が萌実に相談する形で、なぜこんな簡単なお金儲けが推奨されないのかレクチャーしてくれます。親切なレクチャーだと感じました。
監査ファイル3
<一億円を一週間で使い切れ!?>事件  利益演出の話  
上場企業の経営者が株主、株式市場に気を遣う内容をレクチャーしています。経営判断のむずかしさを垣間見た気がします。
監査ファイル4
<株主に怯える社長>事件  上場企業の憂鬱な話  
最後の小話は、上場企業の社長の苦労。2005年の商法改正後に増えた株主提案権行使による余剰金の配当請求など、それまで会社の経営に注力して、実績を上げ昇進した社長にとって、不慣れな株主対応に疲れ果てる様子を描き、「株主のあるべき姿とは?」を問いかける内容になっています。本書出版後五年を経て、だいぶ雰囲気も変わってきたようです。例えば、株主提案は当初だいぶニュースになりましたが、最近は提案側の妥当性も合わせて報道されるようになり、経営者側も対処方法に慣れてきたようです。ルールに則って仕事をするのが資格を以て仕事をする人の役割ですが、ルールに従順であるだけでなく、本来あるべき姿を考えながら仕事をする姿勢も必要だ、と教えられるところの多い内容でした。
監査ファイル5、6は書き下ろし。
監査ファイル5
<天つ風の乙女>事件  内部監査室の話  
カッキーが学生時代に所属していた経理研に片想いの女の子がいた。カッキーと萌実が監査に出向く先は、彼女の出身地。
内部監査室のお話しはさておき。萌実のカッキーに対する思いが読者(だけ)に解る、ラストスパートのお話しです。
監査ファイル6
<ふたり遊び>事件  会計ゲームの話  
前話で酒蔵に閉じこめられたときの二人。会計しりとりでもてあました時間を過ごす。萌実が高校時代に所属した部活(簿記部)のエピソードが紹介されます。
以降は、本シリーズの完結編。萌実の決断とはいかなるものか?
監査ファイル7
<ラストダンスは私に>事件・決断編  事業譲渡・利益至上主義の話  
株式上場を控えた企業への監査に出向くカッキーと萌実。出向いた先の企業では、上場を目前に、創業以来の事業部門の売却が持ち上がっていた。
利益至上主義が不適切な理由を述べる萌実に説得力を感じました。なるほど売上高の大きさはパワーですし、事業の理念も大切ですよね。
監査ファイル8
<ラストダンスは私に>事件・柔軟編  上場企業の投資の話  
謎をひっぱりつつ、萌実がカッキーに進路についての決断を打ち明けます。
監査ファイル9
<ラストダンスは私に>事件・別離編  子会社設立の話  
謎は解決。ミステリー小説のようなどんでん返し。萌実とカッキーは恋愛小説のようにはいかず。残念。ていうか、例えば、「じゃぁ、別れのキスを。」となって、そこからなだれ込んでいくような事は僕も期待していない、、、うぅむぅ。こういう結論しかないのだろうな。と思いました。
この話で「スキーム」なる言葉を覚えました。
監査ファイルfin
<ラストダンスは私に>事件・終幕
萌実が会計事務所を辞めた後の春。僕が安易に発想した「なだれ込む」ではなく(汗)スィートなエンディングが用意されていました。うぅむ。若いときの恋愛って良いよね。ていうか、僕が、かなりオヤジ的な恋愛観になっていたのだと気が付き、(_ _ )/ハンセイ
監査ファイル+1
<真夏の白昼夢>事件・前編  領収書の話  
萌実が会計事務所を辞めて、カッキーと恋人になった後のお話し。萌実の実家に呼ばれたカッキー。稼業の会計の手伝いをさせられて、怪しげな領収書を発見してしまう。
監査ファイル+2
<真夏の白昼夢>事件・後編  脱税の話  
典型的な脱税方法をケーススタディー出来ます。物語としては、カッキーが萌実の家族に受け入れられた様子が解ります。素敵なフィナーレです。
ところで、僕は脱税について思うところがありました。個人で商売をしている人や、サラリーマンもそうですが、取引先に脱税している人がいる場合、困りますよね。迷惑ですよね。(って僕は経験ありませんが)。
脱税そのものよりも、脱税を隠すためにしている事が迷惑です。嘘をつくなら、自分一人でやって欲しいです。人を巻き込むなど迷惑です。嫌な感じがします。
話が飛躍しますが、殺人事件や脅迫事件のニュースで聞いた記憶です。「脱税の発覚を恐れて」とか、横領がばれそうになったので。が動機として上げられているケースがあります。殺人や脅迫は、たぶん脱税や横領そのものよりも悪いです。刑罰が段違いに重いです。凶悪な犯罪を、たかが脱税発覚を恐れて犯すケースに首をひねりました。脱税や横領がばれそうなのになっているとして、脅迫や殺人をばれずに出来るわけないじゃないですか。でも、後ろめたいことをしている人は、そうは考えないのだろうな。となんとなく推測しました。
ここから僕が得る教訓は、「脱税は悪いからやらない」ではなく、「脱税を秘匿するために凶悪犯罪に手を染めねばならないはめになるかもよ。やめとけ。」でした。
内緒にしなければならないこと、みんなで口裏を合わせなければならないような事は、なるべく避けたいです。
感想の範囲を大いに逸脱してきました(汗)
もっと身近なケースで言えば、仕事での小さなミスについても、気軽に言ってみんなで対処できる職場と、現場の担当者の中だけで「停電があったことにしよう」などと口裏お合わせて嘘をつき、正直に報告することを避ける現場とでは、職場の雰囲気が違います。(ちなみに、僕の職場は前者。「あ、水漏れだ!」と言う場合、気が付いた人がモップを持って来て拭き始めます。でも、友達に聞いたところに依ると、「だれが、やったんだ。」と先ず責任追及をするところから始める職場もあるようです。)
ついでに言うと、家庭でも、子供が怒られるような事をしたときに、正直に親に言える家庭と、親に叱られることを恐れて「なるべく黙っておく。」「嘘で誤魔化す」家庭ではだいぶ違います。
幼児教育に熱心だった幼稚園で教諭を務めていた人に聞いた話しを披露します。「叱らなければ。」と思うケースを子供から聞かされた場合。子供が「良くなかった」と言う事を認識しているかどうかを確認するだけに留めるそうです。本人が「失敗だった。」とか「まずいことをした」と認識している場合は、話だけを聞いて、終わりにするそうです。話を聞くだけで終わりにせず、あげつらって指摘して叱ると、次から子供が隠したり、黙っていたり、嘘をつくようになる事を恐れての対処だそうです。
子供に対して、「嘘をつくな」とか「正直になれ」と言葉で言うのではなく、子供が嘘をつかなくても良い態度、正直でいられる環境を作る事に心がけているそうです。
と、言うような幼稚園教諭が身近にいたので(僕の母親ですが(笑))僕はやたらと正直に育ち、つくづくと方便が苦手な事を感じることも少なくありません。でも、僕としては、正直であることに満足しているので、不満はありません。ただし、僕を利用してズルをする人に対しては、最近は厳しく対処するように心がけています。
監査ファイルEX.
女子大生会計士の事件後6
解説です。カッキーが活躍した最後のお話しに萌実が「私ならもっと速く解決したわよ。」とその対処法を解説しています。「なるほど」と膝を打ちました。
2015年 3月18日
No.572