No. 419 体は全部知っている / 吉本ばなな 著 を読みました。
人は空想に遊びます。
素敵な出会いや、ハプニングを空想して、くだらない日常を紛らわしている自分に気づくことがあります。
でも、そんな突発的なことが起こらなくても、現実に僕は生きているし、日常は無事に過ぎてゆく。
頭で考えなくても、体は正直に反応し、行動している。
- 頭でっかちな現代人に贈る日常の物語十三篇。
- みどりのゆび
- 祖母から受け継いだ優しさが、冬の風景に暖かく感じられました。
- ボート
- いやな思い出を「なかったこと」にしてきれいさっぱり忘れてしまう生き方もあるでしょう(「哀しい予感」(角川文庫1991/09/25)のおば「ゆきの」)でも、思い出すことによって、たとえそれがネガティブな思い出であっても生きる力にすることも出来る。力強い物語でした。
- 西日
- 夢想と言えば、「宝くじを当てて脱サラしたい」程度の僕が読むと、なんとも羨ましい楽天的な二人。日常=定職を持って毎日決まった時間に起きて、仕事に行くことは大切です。でも、だからといって、まじめによい子でいれば幸せになれるのか? と言えば、もちろんそんなことはありません。楽天的であることは、同時に自分の責任で生きていくこと。例えばそんなふうにこの物語の二人を表現できるのですが、そんな硬い表現ででなく、柔らかく読める物語でした。
- 黒いあげは
- 思い出に縛られなことの大切さ、ですね。
- 田所さん
- グローバル・スタンダードが叫ばれた九十年代。企業内でも実力主義の査定が明確にされた。公明正大な、たった一つの価値基準。でも、そんな基準に外れた存在価値の可能性を強く指摘された(と書くと、サラリーマンの僕の読書に偏るけれども(汗)田所さんの存在が許される、ゆとりを渇望する自分の気づきました。
- 小さな魚
- どんなものにも愛着が沸く。たとえそれが皮膚の腫瘍であっても。愛着と、その別れの感傷が、丁寧に描かれています。
- ミイラ
- 僕は、「その後、普通の生活が送れたから良かったようなものの、そのままだったら事件になっていただろう」と、まじめに考えてしまいますが、平凡な生活をしている大人に異常な過去があったからと言って、取り立てて驚くには値しない。そんな訴えを聞いたように感じました。
- 明るい夕方
-
「誰かに助けてもらってほんとうに助かったことってあったっけ」と考える時、私はいつも彼女を思い浮かべた。
たぶん、幼なじみ、兼大人になっても友達。と言うのは、こんな信頼感がある二人なのだろうと思う。 - 本心
- 夢で見た、自分の本心。惰性を断ち切る力を夢からもらうファンタジーです。
- 花と嵐と
- 異性の友人の心の成長を暖かく見守る主人公の視点が新鮮でした。
- おやじの味
- 電化製品で楽になった家事。何でも売っている便利なお店。現代の都市社会を一歩離れて振り返るさなえが、その生きる意味を考える様が新鮮に感じられた僕は、たぶん、現代の都市社会に執着しているのだろうな。と思う。
- サウンド・オブ・サイレンス
- この物語の場合は、「なかったことにしてくれ」と親に頼まれた姉の違和感が印象的。見栄と現実のバランス感覚に学ぶところがあるように思いました。
- いいかげん
- すごく、よく、解る気がしました。長年独身をやっていると、結婚している友人からアドバイスをもらうことも多いです。
- 「ここを、変えなくちゃ。」
- そりゃ、ごもっともなのですが、そう言うアドバイスをしている友人が、何か努力をして自分の性格を変えたとは思えません。多分、もともとの自分の性質にちょうど良い人に巡り会えたのでしょう。
- 自分を変えるアドバイスはもっともなのですが、時に面倒になります。時には、神頼みで済ませるのも、気が楽になって良いかも。