No. 431 ワルツ / 結城信孝 編 を読みました。
結城信孝の編集による、ユーモアをテーマにしたアンソロジー。
- 田辺聖子「紐」
- 現代都市生活者の画一化された家族形態を皮肉るかのように、おおらかな男女の営みと、その結果がほほえまし一遍です。
- 石田衣良「フリフリ」
- 決して仲の悪くない二人。されど恋人同士になるわけでもない二人。安易に恋人同士にならない二人のほのぼのとした愛情がにじみ出ていて好感がもてた一遍です。
- 姫野カオルコ「ゴルフ死ね死ね団」
- 仕事や家事=日常生活の時間を割いて彼らが世に問う疑問は、世間に常識として流布される虚構。
本編とはあまり関係ないけれども、「家出」経験者は、世の中の誰もが子ども時代に一度くらいは家出の経験を持っているだろうと言う常識をもつ傾向にあるように感じます。また、子どもの頃に「万引き」の経験がある者は、世の中の誰もが一度くらいは「万引き」をしたことがあると信じているように思えます。ゴルフをする人は - 小泉喜美子「コメディアン」
- 酔いどれが垂れる人生訓と、それに付き合う若手の、結局のところ暇つぶしでしかないやりとりがシニカルに笑えました。
- 連城三紀彦「日曜日」
- お互いに転機を迎えた男女の、別れの儀式としての日曜のデート。距離を保ったまま別れる二人の気遣いが痛ましく微笑ましい。
- 横森理香「夫婦逆転」
- 女房や子どもをないがしろにしたような事を言いながら、外で遊ぶ男の露悪を、男女逆転の表現で指摘した作品として読みました。こんな女に頼る男の気が知れない。
- 田中小実昌「ご臨終トトカルチョ」
- 健常者でありながら病棟に入り浸り入院患者と仲良くなる若い女性の物語は、健常者と言われる者が果たして病名が付いていないと言うだけで健康と言えるのかどうか。と問われているように感じました。
- 森 奈津子「ナルキッソスの娘」
- 家族と考えれば腹立たしい配偶者も、ペットと考えれば可愛いもの? 魅力的な人を家族に迎えた場合のケーススタディとして楽しく読めました。
- 有吉玉青「鍵」
- 友達のような配偶者、では無い、親の進める見合いで結婚した夫とどう付き合うか。訪ねてきた友人、久美とその幼い子どもに接して、自分の行く末を考える主人公の心情にリアリティーがあります。友達と言うと「何があってもあなたの味方だからね」と、結果として彼女の夫を悪者にしても盛り上がる関係もありますが
- 吉行淳之介「猫践んじゃった」
- 尻尾を践んで大騒ぎする猫の歌が「ねこふんじゃった」ですが、轢き殺してしまったら……。飲み屋の陽気な女達はまるで猫のよう。彼女たちと馬鹿騒ぎした土曜深夜に轢き殺した猫を思い出す男の陰がブラックな笑いをさそいます。
この本に収録された作家については、本書で丁寧に解説されていますので、ここでは僕の感想を述べるに留めます。笑い、ユーモアの多彩さが印象に残る一冊でした。
2005年2月11日
No.431
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