結城信孝の編集による、ユーモアをテーマにしたアンソロジー。
- 田辺聖子「紐」
田舎で暮らす青年と、かつて村にあった悪習?「夜這い」を自慢する親爺の物語。 - 現代都市生活者の画一化された家族形態を皮肉るかのように、おおらかな男女の営みと、その結果がほほえまし一遍です。
- 石田衣良「フリフリ」
お節介な友人カップルに引き合わされた二人が、そのお節介を交わすために取った手段は付き合いはじめた「フリ」だった。 - 決して仲の悪くない二人。されど恋人同士になるわけでもない二人。安易に恋人同士にならない二人のほのぼのとした愛情がにじみ出ていて好感がもてた一遍です。
- 姫野カオルコ「ゴルフ死ね死ね団」
町中で激しいダンスを繰り広げる、一般市民からなる思想集団 - 仕事や家事=日常生活の時間を割いて彼らが世に問う疑問は、世間に常識として流布される虚構。
本編とはあまり関係ないけれども、「家出」経験者は、世の中の誰もが子ども時代に一度くらいは家出の経験を持っているだろうと言う常識をもつ傾向にあるように感じます。また、子どもの頃に「万引き」の経験がある者は、世の中の誰もが一度くらいは「万引き」をしたことがあると信じているように思えます。ゴルフをする人は大人ですが世の中の誰もがゴルフをするものだと信じているように感じます。そんな彼らに向かって「それは、常識とは違うよ。」なかなか言えません。それをあえて世に問う「ゴルフ死ね死ね団」の努力が笑いと涙を誘いました。 - 小泉喜美子「コメディアン」
若い芸人と新たにコンビを組んだベテランコメディアンのオフタイム - 酔いどれが垂れる人生訓と、それに付き合う若手の、結局のところ暇つぶしでしかないやりとりがシニカルに笑えました。
- 連城三紀彦「日曜日」
不渡り手形を出して会社をつぶした男と、飲み屋の女の日曜日 - お互いに転機を迎えた男女の、別れの儀式としての日曜のデート。距離を保ったまま別れる二人の気遣いが痛ましく微笑ましい。
- 横森理香「夫婦逆転」
うだつの上がらない夫に子どもの世話をさせ、仕事に精を出す女の憂さ晴らし - 女房や子どもをないがしろにしたような事を言いながら、外で遊ぶ男の露悪を、男女逆転の表現で指摘した作品として読みました。こんな女に頼る男の気が知れない。
- 田中小実昌「ご臨終トトカルチョ」
結核病棟で繰り広げられる賭博と恋愛 - 健常者でありながら病棟に入り浸り入院患者と仲良くなる若い女性の物語は、健常者と言われる者が果たして病名が付いていないと言うだけで健康と言えるのかどうか。と問われているように感じました。
- 森 奈津子「ナルキッソスの娘」
若くて魅力的、嘘つきで無計画な父親を持つ少女カヤノの物語 - 家族と考えれば腹立たしい配偶者も、ペットと考えれば可愛いもの? 魅力的な人を家族に迎えた場合のケーススタディとして楽しく読めました。
- 有吉玉青「鍵」
結婚二年目。夫は一度の浮気経験あり。さて。 - 友達のような配偶者、では無い、親の進める見合いで結婚した夫とどう付き合うか。訪ねてきた友人、久美とその幼い子どもに接して、自分の行く末を考える主人公の心情にリアリティーがあります。友達と言うと「何があってもあなたの味方だからね」と、結果として彼女の夫を悪者にしても盛り上がる関係もありますが
それも憂さ晴らしとして気分転換で済めば結構ですが例えばこんな女友達もありがたいものだと感慨深いです。 - 吉行淳之介「猫践んじゃった」
自家用車で猫を践んだ経験のある男 - 尻尾を践んで大騒ぎする猫の歌が「ねこふんじゃった」ですが、轢き殺してしまったら……。飲み屋の陽気な女達はまるで猫のよう。彼女たちと馬鹿騒ぎした土曜深夜に轢き殺した猫を思い出す男の陰がブラックな笑いをさそいます。
この本に収録された作家については、本書で丁寧に解説されていますので、ここでは僕の感想を述べるに留めます。笑い、ユーモアの多彩さが印象に残る一冊でした。
2005年2月11日
No.431
No.431
