受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 444 池袋ウエストゲートパーク / 石田衣良 著 を読みました。

池袋ウエストゲートパーク

池袋ウエストゲートパーク

 
ミステリーの「今」を読みたければ池袋を読め。刺す少年、消える少女、潰しあうギャング団……命がけのストリートを軽やかに疾走する若者たちの現在を、クールに鮮烈に描く大人気シリーズ第一作。青春小説の爽快さとクライムノヴェルの危険さをハイブリッドした連続ドラマ化話題作にして、日本ミステリー連作の傑作。
解説・池上冬樹
   カバーの背表紙を転記  
池袋西口公園近くの果物屋の一人息子「真島誠」が公園にたむろする少年たちと過ごす日々を描写した連作小説。
池袋ウエストゲートパーク
表題作は著者のデビュー作で一九九七年度第三六回オール讀物推理小説新人賞受賞作です。冒頭で、柄にもなくPHS端末の裏に貼ったままのプリクラを紹介しているシリーズ発端編。
プリクラに写っているのは、五人。マコトと同じ工業高校を卒業したマサ(森正弘)、デザインの専門学校生シュン(水野俊司)、色白の美人ヒカル(渋沢光子)、色黒でグラマーなリカ(中村理香)
五人が知り合ってまもなく、池袋で連続女子高生絞殺未遂事件が発生。この物語は、マコトが中心となって、事件を解明してゆく一種のミステリー作品です。
ミステリーの要素を含む作品ですので、具体的なストーリーには触れないことにしますが、僕が一番特徴的に感じたのは、マコトと言うヒーロー像です。この小説には警察もマスコミも、ただのサラリーマンも出てくるのに、果物屋の手伝いである彼が唯一人真実に迫ってゆく点です。
また、彼が真実に迫る過程で、池袋にたむろする少年たち(ギャング・ボーイズ略してGボーイズ)の協力を得ながらも、この小説舞台でのマジョリティーである彼らGボーイズに対し、マコトがマイノリティーで通している点です。既存権力に阿ることなく、また群れることもなく、彼らの協力を得ながら孤高に事件の真相に迫るヒーロー像でした。個人主義と言うと、他者とのコミュニケーションを疎にする人の事を差すように思っていた僕は、このように熱く、他者と関わりながらも自分の意志を貫く方法もあるのだと、認識を新たにしました。
もう一点は、彼がこの事件に深く関わる動機です。熱くなる動機として、僕にすぐ思い浮かぶのは、金や女やカッコイイ職業としての「夢」などですが、マコトの場合は、そのどれでもありません。熱くなるには、なにも若者向けのTVバラエティー番組で紹介されるような「夢」などは必要ない。と言ってしまうと、僕の読み過ぎでしょうか。
エキサイタブルボーイ
連続絞殺未遂事件の犯人捜しを評価されたマコトに舞い込んだ依頼は人捜し。Gボーイズを束ねるタカシ(安藤崇)を通して依頼してきたのは、ヤクザの組長。人捜しは組長の娘でした。
マコトに廻されてきたヤクザの助っ人は、マコトの中学時代の同級生=サル(斉藤富士男)。もう一人マコトの同級生が新たに登場します。学年一番の秀才で今は引きこもりの森永和範。
よくも、まぁ、個性的な同級生が揃った中学なのだろう。と思うのですが、それは、僕がその後、高校、大学と、受験で進学した同級生の印象が残っているからだと気づきます。受験で似通った学力の子供が集まった高校の同級生とは違い、とにかく学区内に住む同年齢が全員揃った中学の同級生だから、なのですね。そう言えば、僕の中学校での同級生もバラエティーに富んでいました。みんなどうしているのかなぁ。
閑話休題。この事件もマコトは首尾良く?解決するのですが、ここでも、サルが所属する組織の協力を得ながらも、近づきすぎることなく、解決後は再び一人に戻ってゆくマコトが印象深かったです。
オアシスの恋人
さらにマコトの同級生が登場。今度は女生徒、今はヘルス嬢の千秋。マコトは千秋のカレを救えるのか。
結果としてカレのみならず街までを救うマコトや、マコトの仲間達の活躍が鮮やかです。社会の役には立たなそうな仲間達の特技を十二分に発揮させるエキサイトな一遍でした。
サンシャイン通り内戦(シヴィルウォー)
エキサイトと言えば、ラストの一遍には熱中しました。Gボーイズが繰り広げる抗争のまっただ中に身を投げ出しつつも、どちらの味方にも付かず、カラクリを解き明かしてゆくマコトがすごいですね。おまけに恋までしているし。
「仕事が忙しい」と言って仕事しかしていない時が、僕にはありますが、逆に忙しい時ほど、仕事以外の事も充実している時期もあったな。と思い出しました。
もちろん、暇になったらやってみたいことも沢山ありますが、忙しい中でも出来ることは沢山あります。マコトの躍動を見ていたら思い出しました。
ちなみに、この一遍では、恋愛における女性の光と影の描写も印象的でした。
2005年5月11日
No.444