20世紀最恐の暴君アドルフ・ヒトラー。戦争中、ナチスに処刑されたユダヤ人は600万人と推計される。現代に生きる我々はホロコーストを知っており、どんなことがあってもこの独裁者を許してはならない。一方で、ヒトラーが当時最も民主的な国家と言われたワイマール共和国から誕生したことを忘れてはならない。なぜ人びとは、この男を支持したのか。悲劇は止められなかったのか。歴史には必ず教訓がある。ヒトラーを正しく恐れるための入門書。カバーを転記
ヒトラーとドイツの経済/政治史(前半)
前半で、ヒトラーと、ドイツの経済、政治を時系列で解説しています。
第一章「少年ヒトラー」から
第四章「第二次世界大戦」まで
ヒトラーとナチズムの研究成果解説(後半)
後半は、代表的なヒトラーの研究成果の紹介+解説です。
第五章「反ユダヤ主義とは何か」から
第七章「ヒトラーに従った大衆」まで
独裁者が生まれたカラクリ
前半では
よく言われる
「ヒトラーは合法的に独裁者になった。」
が、どういうことか、をお勉強できました。
本書を読む前は、
wikipediaの「全権委任法」(1933/3/23成立)
を読んで、
「反対票を投じそうな議員をあらかじめ逮捕しているのだから、国会での議決は違法だろう?」
と思っていました。
つまり「合法的に独裁者になった」と言うことが納得できませんでした。
本書は、このからくりがわかりやすく解説されていています。
「合法的」と言うことには納得できませんでしたが、
何がまずかったのか、を自分でも考えられる程度には、理解が至ったように思います。
三権(行政、立法、司法)の分立の大切さが肌身に感じられました。
エビデンスよりも、タレントがTVで言うことを信じるのが大衆
後半は、このドイツの歴史から何を学び、今どう生かすことができるのか、自分なりに考えを巡らせる助けになりました。
本書で著者は、主に移民や外国籍の人を排斥する人たちと、当時ナチを支持したドイツ国民との類似点を指摘しています。
いくら理屈で説明しても、聞く耳を持たない人たち。
技術立国日本において、ほとんどの人が高校以上の学歴を持っているにも関わらず、なんでこんなに阿呆なの?と思っていたのですが、本書のヒトラーの研究成果に触れて、「そういうものなのだ。」と思った次第です。
真実でなくていい
この本は、だから、
と思う人たちや、
と思う人たち。
つまり、一生懸命
「そんなコトをしていたら、僕たちみんな不幸になってしまうよ。」
と訴えたい人たちに役に立つと思いました。
特に、高田博行の研究
を紹介した第六章「ナチスと宣伝」に感じるところがありました。
大衆は、エビデンスが示されていることよりも、
TVでタレントが言うことのほうを信じる。
一所懸命データを示し、
エビデンスを明らかにしても
言う相手には、有効打にはならない。
逆に
「義務を果たさないのに、権利ばかり主張する。」
とか
「ベクれてるに決まっている」
と根拠無しに、主張するほうに乗りやすい。
「あの人が、そう言っているのだから、そうなのだろう」
と支持されることを理解し、
表現の方法を考えるべきだ、と思いました。
新書で読みやすい一冊
後半で紹介されているヒトラー研究の出典を見ると、
戦後直ぐから、熱心に沢山に人が成果を発表していることが解ります。
しかし、私たちのような一般人が、それらの研究本を読むのは、無理です。
と言うわけで、新書一冊にまとめられた、本書がありがたかったです。
2019年 9月17日
No. 637
No. 637