受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 637 ヒトラーの正体 / 桝添要一 著 を読みました。

ヒトラーの正体 (小学館新書)

ヒトラーの正体 (小学館新書)

 
20世紀最恐の暴君アドルフ・ヒトラー。戦争中、ナチスに処刑されたユダヤ人は600万人と推計される。現代に生きる我々はホロコーストを知っており、どんなことがあってもこの独裁者を許してはならない。一方で、ヒトラーが当時最も民主的な国家と言われたワイマール共和国から誕生したことを忘れてはならない。なぜ人びとは、この男を支持したのか。悲劇は止められなかったのか。歴史には必ず教訓がある。ヒトラーを正しく恐れるための入門書。
  カバーを転記  

ヒトラーとドイツの経済/政治史(前半)

前半で、ヒトラーと、ドイツの経済、政治を時系列で解説しています。
第一章「少年ヒトラー」から
第四章「第二次世界大戦」まで

ヒトラーとナチズムの研究成果解説(後半)

後半は、代表的なヒトラーの研究成果の紹介+解説です。
第五章「反ユダヤ主義とは何か」から
第七章「ヒトラーに従った大衆」まで

独裁者が生まれたカラク

前半では
よく言われる
ヒトラーは合法的に独裁者になった。」
が、どういうことか、をお勉強できました。
本書を読む前は、
wikipediaの「全権委任法」(1933/3/23成立)
を読んで、
「反対票を投じそうな議員をあらかじめ逮捕しているのだから、国会での議決は違法だろう?」
と思っていました。
つまり「合法的に独裁者になった」と言うことが納得できませんでした。
本書は、このからくりがわかりやすく解説されていています。
「合法的」と言うことには納得できませんでしたが、
何がまずかったのか、を自分でも考えられる程度には、理解が至ったように思います。
三権(行政、立法、司法)の分立の大切さが肌身に感じられました。

エビデンスよりも、タレントがTVで言うことを信じるのが大衆

後半は、このドイツの歴史から何を学び、今どう生かすことができるのか、自分なりに考えを巡らせる助けになりました。
本書で著者は、主に移民や外国籍の人を排斥する人たちと、当時ナチを支持したドイツ国民との類似点を指摘しています。
僕は、それに加えて、社会不安を煽る人たちや、風評被害を拡散するフェイクニュースや、いい加減な新聞記事を鵜呑みにする人たちも、ある種の極端なリーダーを支持する大衆である、と思いました。
いくら理屈で説明しても、聞く耳を持たない人たち。
技術立国日本において、ほとんどの人が高校以上の学歴を持っているにも関わらず、なんでこんなに阿呆なの?と思っていたのですが、本書のヒトラーの研究成果に触れて、「そういうものなのだ。」と思った次第です。

真実でなくていい

この本は、だから、
ネトウヨヘイトスピーチがイケナイと思い、どうにかしなければ、
と思う人たちや、
放射線や公害の風評被害が収まらないことを残念に思い、なんとかしなければ、
と思う人たち。
つまり、一生懸命
「そんなコトをしていたら、僕たちみんな不幸になってしまうよ。」
と訴えたい人たちに役に立つと思いました。
特に、高田博行の研究
ヒトラー演説 - 熱狂の真実 (中公新書)

ヒトラー演説 - 熱狂の真実 (中公新書)

 
を紹介した第六章「ナチスと宣伝」に感じるところがありました。
大衆は、エビデンスが示されていることよりも、
TVでタレントが言うことのほうを信じる。
 
そのヘイトスピーチが、風評被害が、間違ったものだと説明するために、
一所懸命データを示し、
エビデンスを明らかにしても
言う相手には、有効打にはならない。
逆に
「義務を果たさないのに、権利ばかり主張する。」
とか
「ベクれてるに決まっている」
と根拠無しに、主張するほうに乗りやすい。
 
「あの人が、そう言っているのだから、そうなのだろう」
と支持されることを理解し、
表現の方法を考えるべきだ、と思いました。

新書で読みやすい一冊

後半で紹介されているヒトラー研究の出典を見ると、
戦後直ぐから、熱心に沢山に人が成果を発表していることが解ります。
しかし、私たちのような一般人が、それらの研究本を読むのは、無理です。
と言うわけで、新書一冊にまとめられた、本書がありがたかったです。
2019年 9月17日
No. 637