No. 602 女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと / 西原理恵子 著 を読みました。
タイトルの通り、若い女性が、社会に出て行くまでに必要な覚悟を親身に説いたエッセイです。
「良い本」の定義が出来ました
「親しい人に勧めたい。」です。自分で沢山買って、配ってでも読んで欲しい。です。
これだけ、自分が読んで「為になった。」「役に立った。」「目から鱗だった。」と思うのです。特に親しい人、愛しい人に読んで欲しいと思います。
実際には勧めない
ところが、実際には、人に勧めません。
それは「良薬、口に苦し。」だから。
「この人に必要。」と思ったら、つまりその人は苦い薬を飲んでいない人です。
飲ませるのは困難です。
人に勧められた時に「ディスる」ことは簡単です。
ネットの書評を見てみれば、一目瞭然。「読まなくても良いですよ。」と言ってくれる書評が「いいね」をどっさり稼いでいます。
本書でも「やらないうちは、いくらでもディスれる」と例を挙げています。
あの監督はダメになったあのマンガは面白くなくなった第二章 スタート地点に立つために、できること。の「根拠のない自信よ、さようなら。みっともない自分、こんにちは。」から引用
ここから学ぶのは「苦い薬を飲まない人に、この本を薦めたとしても、同じように簡単にディスって読まないであろう。」と推測することです。
残念ながら、この本を娘に読ませることは出来ませんし、暴力を振るう夫にも読ませることは出来ません。自分の役に立つ、と言うことでヨシ。としなければなりません。
なぜ苦い良薬なのか
ところで、本書を「良薬口に苦し」だ、と申し上げましたが、なぜ僕が「苦いだろう」と思うのかを説明しようと思います。
本書を読んで「すばらしい。」「その通り」と思う箇所を、よく考えてみると「自分の行動を変える」ことだからです。
先に引用した例で言えば、映画がつまらないと思うのならば、自分で撮ってみれば良いし、面白いマンガを自分が描いてみれば良いのです。
実際に撮ってみれば、ダメじゃない映画を撮る難しさが解って、簡単に(ゴールデン街の飲み屋で)「あの監督はダメになった。」などと言わないでしょうし、実際に描いてみたひとは「あのマンガは面白くなくなった」と言わないと思います。
でも、監督をディスっている人は、決して自分で映画を撮りませんし、マンガをディスっている人は決して自分では描きません。
再び本書からの引用ですが、人は自分の行動を変えたりせず、簡単にできることしかやりません。
「巻くだけでやせる」と言われたら、巻くし「ふくらはぎを揉めばやせる」と言われたら、揉む
でも、それ以上のことはしません。
ジェイン・オースティン『高慢と偏見』 2017年7月 (100分 de 名著)
- 作者: 廣野由美子
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でも、長らく人気を保ち続けている秘訣に、読者が感情移入した主人公がなんら変わることなく、ハッピーエンドを迎える点にある。と解説されていました。
僕のように工場で働いている人だったら、「問題解決手法」として「他の人に何かをやらせるのではなく、自分ができる事を先ずやってみるのが、問題解決の早道」と習ったことがあるでしょうし、「人を変えるのは難しい。自分が変わることはできる。」とは人口に膾炙されていることです。
それでも、自分が変わるのはイヤで、人を変えたいと思うのが、どうやら人のサガと言うものらしいです。
この本を人に「読め」と言うことは、「書いてあるとおりに、あなたが変わって下さい。」と言うようなものです。人に勧めたところで、読まれるワケがありません。
僕は近しい人に、この本を薦めないことにしました。読んで納得したことは、自分で実践します。
親切な本ですね
ここまで考えると、本書が大変親身で親切な本であることに思い至ります。
ウケが良く、売れる本を書こうと思えば、読者に向かって「あなたが変わって下さい。」なんて言わずに
(成功しないと思っても)「暴力夫は、こうすれば直る。」と書いたり、
「自分で働かないで一生過ごせるように、こんな旦那を選びましょう。」
と書いた方が良いのです。
本書では、暴力夫を直すのではなくて、逃げろと、読者に促していますし、
一生遊ばせてくれる旦那を選ぶのではなく、自分で働けと言っています。
ウケ狙いの金儲けを目的に書いた本ではなく、本当に読者のことを思って書かれたものであると感じられます。著者が読者に向けて、親身で親切なことに思い至ります。
蛇足
最後に。
「人に勧めるのではなく、自分で実践しろ。」
と書くことは、おそらく本の感想としては、評判が良くないであろうことは、自分でも気がついています。
そこで「僕は、人に勧めるのではなく、自分で実践します。」と自分のこととして取り繕っているわけですが、この程度の工夫では、僕の意図は見抜かれてしまうでしょう。
そこで、もう一つ気がつくのは、この本の評判が大変良いことです。
「人に読ませたい。」と思わせる良書であることに加えて、読者に「あなたの行動を変えろ。」と言っているにもかかわらず、本書が一月も経たないうちに重版出来の人気であることは、著者の読ませる筆力があるのだな。と気がつきました。
賢そうなふりをして、偉そうな文章を書くのではなく、話し言葉で、語りかけるように書かれた文章に、その一つもあると思うのですが、他にも、僕が気がつかない工夫が、いろいろあるのだと思います。
そういうわけで、せっかく僕のつたない感想文を読んでくれた皆様には申し訳ないですが、この本がなぜこれだけのパワーを持っているのか、僕にはわかりませんでした。
僕にはわからないパワーを持ったこの本を(感想とは全く矛盾しますが)皆様にお勧めして、感想を終わりにします。
皆様の夏が楽しい夏になりますように。
敬具
2017年 7月29日
No.602