No. 574 部長と池袋/姫野カオルコ著 を読みました。
「部長と池袋」「慕情と香港と代々木」「青春と街」「夏と子供」など、ある光景の中の思い出、旅情を綴ったPART I。アイロニカルな「巨乳と男」「ゴルフと整形」「書評と忸怩」、パロディ「パソコンと恋」「秘密とアッコとおそ松くん」などで構成したPART II。書籍未掲載作品を大幅改稿した「蔵出し」文庫オリジナル。姫野カオルコの魅力がたっぷり詰まった一冊。背表紙より転載
僕(Daniel Yang)は、本書を発売直後に購入して読み終えています。読了直後、部分的な感想を、もう一つのブログに記しています。
姫野カオルコ「部長と池袋」(光文社文庫2015/1/20)を読みました。 - daniel-yangのブログ
以下は、上記を元に書き直した感想文です。
マニア垂涎の一冊。
今まで単行本などに未収録だった作品を一堂に集めた文庫オリジナル。初期作品に通じる味わいがあり、昔からのファンである僕にとっては「あぁ、俺、こういう作品が好きでファンになったんだよな。」と再認識する形で楽しめました。
PART I
部長と池袋
- 部長と池袋
- 佐藤部長の設定がほとんど現在の僕、と気が付いて大笑いしました。(年齢、血液型、星座、最初に結婚してからの年月、子供ナシ)違うのは、僕が平社員である事くらいでしょうか。
「池袋」ってヘンな地名だよね。
と言う部長に突っ込む立場ではなく、突っ込まれる立場として読みました。
自分が感じたことを正直に述べて笑われる事があります。笑う人が
「普通は、そうじゃないだろ。」
と考え無しに突っ込んだ際、僕はカウンターとして
「俺は自分が感じたことを述べたんだ。それを否定はできないだろ。」
と心の中でつぶやきます。
実際には、口に出せません。
自分がアウェイにいると感じたときに、必死になって自分の正当性を訴える事を潔しとせず、
マイナーである事を受け入れ、
でも正直に自分の感情を反芻する佐藤部長。
そんな部長に親しみを感じました。 - 慕情と香港と代々木
- リエに代々木を広東語で「ダイダイモッ」と読むことを教えてくれたロンビー。用事で香港に旅したリエをアテンドしたロンビー。友情ってこういうことなんだな。と思いました。
再び香港を訪れるのが二十年後になることを知らないリエたちの、後悔とは異なる若さへの感慨が綴られています。身に染みます。
僕も、若いときを反省して、「今なら、もっと人に丁寧に人に接するよう心がけよう」と思います。でも、もう一度やり直したい、と後悔しているワケではありません。
なんだろう?この感覚は。若さへの憧憬ということかも。 - 池袋と白い空
- いろんな人がいます。若い女に砂を掛けられれば、必ず眠りに落ちる壮年男子にもリアリティーがありますが、少々紋切り型にも感じます。このような男もまたリアリティーがあります。
- 青春と街
- ちょうど志賀直哉の連作私小説(「山科の記憶」1925改造に発表など。「小僧の神様・城の崎にて」新潮文庫1968/7/30
-
や
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- 18歳の山科
- 僕は山科を、開けた土地だと思っていました。大石内蔵助が居を構えていた全国的にも知られた地名ですし、京都市内(山科区)ですから。でも、地図で確認すると滋賀県の県境に接し、京都盆地が始まる(終わる)山間部と平地が混在する地のようです。
全国と見比べることのない若い時期の特定の街の印象が、僕にも懐かしさを覚えさせました。 - 19歳の新宿
- アルタがアルタになるころの新宿の風景。
1971年の京王プラザビル完成から、1993年の都庁開庁までが、新宿の変貌期と言えるようです。その初期の頃の新宿の風景。
「都心」ではなく、「地方都市」としての新宿が感じられました。 - 21歳の渋谷
- 109ができて間もないころの渋谷。当時31歳の沢田さんが小学生の頃から知る渋谷を語って、その変貌に思いを巡らします。
- 25歳の六本木
- 六本木は、当時から「芸能人が夜遊びしている街」で変わりが無い様子です。若くて貧しい「私」が配達で訪れた大金持ちの客とのやりとり。
- 33歳の金沢文庫
- 横浜市民の誇り「京浜急行」。東京から乗ってくると、横浜市最後の駅「金沢八景」の手前が「金沢文庫」。横須賀市と逗子市に接する金沢区は横浜の最南端です。
金沢文庫のレストランに勤めていた著者が、京急快特乗車時に着想した「蕎麦屋の恋」(角川文庫2004/9/25) -
- 執筆のエピソードを紹介しています。単行本が発行されたのは2000年2月ですが、執筆は1992年ころだったのか。と計算してみました。後年のヒット作「ツ、イ、ラ、ク」(角川文庫2007/2/25)
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執筆について、雑誌インタビュー記事を読んだ記憶があります。(頭をひねってストーリーを作り出すのでなく、目をつぶって見えてくる情景を描写している)この執筆法にはずいぶんと驚愕したものです。「蕎麦屋の恋」もそうでした。
「蕎麦屋の恋」を読むと、読んでいる僕は、文字を目で追っているだけなのに、登場人物が街を歩いているときに顔に当たる風の温度、湿度、匂いまでもが感じられる圧倒的な雰囲気の描写に引き込まれます。
なるほど、人には真似のできない小説作法を用いていれば可能なのかもな。と畏れ入る次第です。 - 11歳のハワイ、46歳のハワイ
- 子供の頃に思い描いた将来の「私」は実際に大人になってみるとだいぶ異なります。ハワイを例に昔と今を表現しています。
- ~ ティータイム ~新・日本三景
- 東海道線から見る伊庭邸(安土駅付近)、
埼玉県宮代町立・笠原小学校、
函館の館町界隈 - 夏と子供
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- 琵琶湖の風呂敷
- 荷物を風呂敷に包んで出かけたサマースクール。湖畔の三泊四日。
- 小3の水洗便所
- 当時、まだ珍しかった水洗便所の故障にあわてる通いのお姉さんと私の一日。
PART II
巨乳と男
- 巨乳と男
- 悲劇とは滑稽なるものですね。
- ゴルフと整形
収録の「天国に一番近いグリーン」改題。 - 改編により、「整形美女」(光文社文庫2015/5/20)
- 書評と忸怩
- 「小市民」を絵に描いたような相模公輔の日常。
- パソコンと恋
- 失って始めて気づく大切なものへの想い。
- ~ ティータイム ~ おやゆび姫
- 「パソコンと恋」の内容を引き継いで、親指シフトのアピール。
- 秘密とアッコとおそ松くん
- 姫野カオルコ作品の出色である「雰囲気が感じられる」描写が、本作でも際立っているように思います。
2015年 7月15日
No.574