受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 55 旧約聖書を知っていますか / 阿刀田高 著を読みました。

旧約聖書を知っていますか (新潮文庫)

旧約聖書を知っていますか (新潮文庫)

  • 作者:阿刀田 高
  • 発売日: 1994/12/20
  • メディア: 文庫
 

旧約聖書の全体像を把握出来ました。

 

あえて、天地創造からではなく、
創世記第12章の主人公「アブラハム」(僕の聖書では「アブラム」)の物語からスタートしています。
第1話 英雄アブラハム
第2話 子沢山のヤコブ
第3話 奇跡の人モーセ
第4話 有能なヨシュア
歴史として理解できる物語を続けて読者を聖書の世界に引き込んでいます。
日本の物語で言えば、古事記を上巻、中巻の神話や伝説を記したお話しをとばして、下巻~実在したと思われる天皇の歴代記から、現代風の物語にしたような感じです。

 

第5話 サムソンの謎(士師記
第6話 ダビデの熱い血(サムエル記)
第7話 ソロモンの光と影(列王記)
聖書の順に、王国の歴を辿っていきます。

 

第8話 アダムと肋骨
ようやく神話の世界に戻ります。

 

第9話 逃亡者ヨナ(ヨナ記)
再びユダヤ王国の歴史に戻り、困難な歴史を語り始めます。

 

第10話 ヨブは泣き叫ぶ(ヨブ記
ヨブ記で、旧約聖書の歴史物語は終盤を迎えるのですが、
ここで著者が交えるエピソードが趣深く、本書を僕の印象に強く残しました。これについては後述します。

 

第11話 預言者二人(イザヤ書
第12話 エピローグするめ風味
最後に、旧約聖書を改めて眺め直し、全体像を解説しています。

 

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本書は、
ギリシア神話を知っていますか
アラビアンナイトを楽しむために
あなたの知らないガリバー旅行記
に続く、著者の古典解説。第4弾。
阿刀田高と言えば、古典の解説」
を印象づけた一冊だと思います。

 

何が傑作かと言って、僕が「旧約聖書を知っているぜ。」と思えるようになったところが傑作だと思います。
では、具体的に
「知っているぜ。」
と僕が思えるのはどのようなことか。

 

考えてみると、
「全体を把握した。」
と言うことかな?と考えました。

 

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僕はテレビドラマを観るときには、全体の構成を大まかに説明でき、感動の中心を理解して、初めて「こんなドラマだよ。」と人に説明できるようになります。
人に説明できるようになって初めて「おおかた把握した。」と理解した気分になります。

 

一方、音楽の場合は異なります。人に説明する場合
「このアコースティックギターの音色が素敵」
だけで、人に
「良い曲だよ。」
と訴えます。

 

本の場合は、テレビドラマと同じです。つまりこのブログで僕が「素敵です。」と言うためには、
全部を読み通し、
全体像を把握し、
感動の中心がどこにあるかを見定め、
細部の工夫を理解し、
自分なりに得たポイントを整理する。
と言う作業が必要になります。

 

聖書では出来ませんでした(ノ-_-)ノ ~┻━┻・..。;・'

 

そこで、この本を手にしたところ、
全体像を把握し、
「必要に応じて、細部は本物の聖書を開き、確認しよう。」
と、一つコマを進ませることが出来るようになりました。

 

僕と同じように、「全体像を把握しないと、読んだ気分がしない。」とおっしゃる方が、「聖書を読んでみたい。」と言う時には是非ともお勧めの一冊です。

 

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僕は学生の時にアルバイト(家庭教師)先のお宅でいただいた聖書を持っています。
【新価格】BI-30 聖書 新改訳 小型スタンダード版 (いのちのことば社)

【新価格】BI-30 聖書 新改訳 小型スタンダード版 (いのちのことば社)

  • 発売日: 2018/12/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
これの1988/06版で、非売品ですが、
「読破してみよう」
と試みたことがありました。
旧約聖書三十九書と新約聖書二十七書からなるこの分厚い本ですが
序書「創世記」
で挫折しましたf(^ー^;
第一章(最初の一週間)の六日目で
「神はこのように、人をご自身のかたちに想像された。神のかたちに彼を創造し、男と女とに彼らを創造された。」
と記しています。
第二章で、再び
「土地のちりで人を形造り、その鼻にいのちの息を吹き込まれた。」
と二度人を創造している矛盾が納得できず放り投げました。
その後、本書(阿刀田高著「旧約聖書を知っていますか」)を読みました。
例えば「十戒」って何かな?
と思えば、出エジプト記20章を読みます。
例えばモーセが海を割って渡ったお話しはどこかな?
と思えば、出エジプト記14章を読みます。
既に全体像を把握したと思っているため、必要な箇所を探して読めば良い、と納得しているわけです。

 

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そして、本書で一番強く印象に残った
第10話 ヨブは泣き叫ぶ
に戻ります。
第10話の冒頭で、著者は義父の言葉を紹介しています。
「人の上に立つ者は、正直者が馬鹿をみないよう、いつもそれを考えなきゃいかん」
(中略)
「しかし、本当の正直者は、そういうことをあまり言わないものだ。」
です。
たしかに、「正直者が馬鹿をみるのは後免だ」と、しきりに主張する人は、得をするから正直になってみただけで、大もうけが出来るなら、卑怯な手段を喜んで採用し、人を欺いたり、出し抜いたりすることを躊躇しないのかも知れません。
このエピソードから類推し、信仰をもたない僕たちが聖書を読んで、その矛盾や、読み物として足りない所を指摘する気持ちと、実際に信仰を持っている人たちにとっての聖書の持つ意味の違いを解説しています。

 

納得しました。
物語に直接関係ないエピソードは、時に単なる脱線となり、話し相手を混乱させるものですが、このエピソードの挿入は大変効果的でした。
また、エピソードからの直接の教訓として、
「自分が正直者として満足しているならば、それで多少損をしても、不満を述べないことにしよう。」
と心にとどめました。
この教訓は、その後の僕の人生の困難にあって、大変心強いものとなりました。
僕の困難を見守った人が、事を収めた後に曰く
「君はタフだね。」
と言った、僕の底力の基礎体力になったと思います。

 

意外な所で、僕の読書は、自分の力になっているのでした。

1997年11月1日
大幅に加筆訂正2013年11月21日

No.55