No.539 社会派ちきりんの世界を歩いて考えよう!/ちきりんを読みました。
Hatena::Diaryのブログ「Chikirinの日記」が人気のブロガー「ちきりん」の三冊目の本です。
バブル景気(1986/11~1991/ 2)最盛期に証券会社で働いていた(と、カバーの著者略歴に記されている)著者の、学生時代から、最近までの海外旅行記です。著者は、海外での勤務経験もある模様ですが、この本で紹介されているのは総て私費の観光旅行です。
- はじめに
- フィリピンの喫茶店で紅茶を注文したところ「透明のお湯が入ったカップ」と、皿の上に乗せられた「リプトンのティーバッグ」が運ばれてきたエピソードを紹介しています。カルチャーショックと、その種明かしが、本書の案内(又は、後述する読者の選別)になっています。
- 第1章 お金から見える世界
- 旅行をすれば、現地でお金を使います。現地で使うお金は現地の通貨です。国内でお金を使うのとは異なる、各国での通貨事情あれこれ。
「ミャンマー」「中国」「南米」「インド」「キューバ」「メキシコ」「韓国」
7箇国のエピソードで綴られる第1章は、一部Chikirinの日記の記事を再録しながら、いわゆる「旅行記」とは趣を異なります。僕が「いわゆる「旅行記」」として想定しているのは、観光の目玉の紹介を主題にした旅行記です。お金については必要最低限の換金の仕方、お店での支払いで注意することなどに限っているガイドブックとしての旅行記です。
本章では、旅行で必要な現地通貨の扱い方に留まらず、自分が両替した「円」が現地の人にとって、どのような意味を持つのか。旅行先の政府が求める両替する金額の意味、など、単なる観光では必要にならない「考察」を述べています。後の章では、いわゆる「旅行記」として、各国の観光スポットの魅力などを紹介していますが、あえて、最初の章に「旅行記」らしからぬ「考察」を持ってきたところに、本書の特徴があると思います。それは本書のタイトルが「世界を歩こう」ではなくて、「世界を歩いて考えよう」とした「考える」部分です。本書は、この「考える」事が楽しみです。この楽しみを間違えて買ってしまわないように、冒頭に示したのが、先に述べた「読者の選別」になっているのではないかと考えた理由です。
- 第2章 異国で働く人々
- 現地の国で働く移民に着目しています。
祖国と出稼ぎ先の関係を、国の経済力の移り変わりを念頭に考察しています。エピソード3「二つの異なる移民の国 ブラジルとアメリカ」での比較が特に印象的です。
- 第3章 人生観が変わる場所
- 「圧倒的な自然の力」を感じるところ
「中国新疆ウィグル自治区」「イースター島」「サファリ@アフリカ」
単なる大自然のみの観光地では無く、自然と人との関係を考察して紹介しているところがちきりんらしい観光案内です。
- 第4章 共産主義国への旅
- 「ソビエト連邦時代と現代のモスクワ」「1989年のベトナム」
ソビエト連邦時代のモスクは、著者が学生の時。おそらく泥沼のアフガニスタン紛争介入で、経済破綻中。1989年のベトナムは、1975年アメリカとの戦争終結、1979年の中越戦争を経て華僑145万が30万人以下に減るまで大量のボートピープルが日本のTVニュースで放映されていた頃のこと。ちなみに、1992年時点でもベトナム国内に拘束/思想教育をされていた旧南ベトナム政府および軍関係者が9万4000人もいたそうです。
と、言うわけで、章題の「共産主義国」とは経済に失敗した悲惨な国の意味なのですが、「実際に行ってみて」の内容は「なるほど、現地に行かないとワカラナイものですね。」と、海外旅行の意義を感じるものでした。
- 第5章 ビーチリゾートの旅
- 「モルジブ」など
ちきりんパーソナルと分離する前、会社員時代のChikirinの日記では、盆休みの頃になると南の島の楽園でのバカンスをレポートされていました。「社会派ちきりんも大金持ちの欧米人のように、ビーチで過ごすのだな。」と妄想を膨らませていたのですが、ここでの観察眼は、「やはり、ちきりん」と思えるものでした。
- 第6章 世界の美術館
- ウィーンの「美術史美術館」、パリの「ルーブル美術館」、「ポンピドゥー・センター」、ロンドンの「大英博物館」、ニューヨークの「メトロポリタン美術館」、徳島県の「大塚国際美術館」、ベルリンの「ペルガモン博物館」などの美術館の背景、特色を解説し、
ギリシャのアテネ、オリンポスの丘の上の「パルテノン神殿」、エジプトの「ルクソール遺跡」、カイロの「考古学博物館」、アフガニスタンの古代遺跡の仏像、敦煌の「莫高窟」など、古代美術品が存在した現地との関係を振り返り、
パリ郊外の「ヴェルサイユ宮殿美術館」、トルコ、イスタンブールの「ドルマバフチェ宮殿」を比較し、
六本木ミッドタウンの「サントリー美術館」で三井寺展、東京国立博物館での「空海と密教美術展」を手本に、美術展の展示の意義を語ります。
美術鑑賞も趣味と記されている通りの造詣の深さには、ただ者ではない迫力さえ感じられました。
これだけに留まらず、現代史を扱った、北京郊外の「中国人民抗日戦争記念館」、モスクワの「現代史博物館」、ベルリンの壁博物館、キューバのグラマン号、北京の故宮博物館、台北の故宮博物院で、歴史的出来事の背景を推察し、
大聖堂や、ピラミッドなどが造られた社会的背景に思いを馳せます。
この章だけ抜き出しても、一冊の本が出来るのではないかと思われるくらいの内容です。著者が退職する前=サラリーマン時代から「Chikirinの日記」を読んでいたので、今までの僕は「ちきりんは、一般ピープルの中でもブログで人気を博す能力に優れた人」程度の認識だったのですが、この章を改めて読み返すと、「不世出の人」なのではないかと思い直しました。
- 第7章 古代遺跡の旅
- トルコの「エフィソス遺跡」、ペルーのインカ遺跡、「マチュピチュ」、カンボジアの「アンコール・ワット遺跡群」、メキシコのテオティワカン、パレンケ、チチェン・イッッツァやグアテマラのティカル
- 第8章 恵まれすぎの南欧諸国
- イタリア、ローマの「ボルゲーゼ美術館」、ベネチアの「プンタ・デラ・ドガーナ」は、第6章、第7章の続きとして美術館評、
ギリシャ、スペイン、イタリアとロンドンやドイツの食文化の比較が楽しいです。
- 第9章 変貌するアジア
- 韓国、中国、タイのバンコクの変遷
各国の国際空港を日本のそれと比較して、
シンガポールのがんばりを語ります。第10章 豊かであるという実感1980年代のビルマ(現ミャンマー)、
インドでのリキシャドライバーの少年と、良家の子女の通学を見てのエピソードには感じるところが多かったです。
「チップ」の習慣から話題を掘り下げて、インドでの喜捨を福祉制度ととらえた場合の、日本の税金&国家 or 地方自治体による再分配制度との比較は秀逸だと感じました。ところで、思いついたので、本の感想から逸脱します。健康保険が使えない場合の治療費について述べます。「盲腸手術入院の都市別総費用例」が、旅行代理店のAIUのウェブサイトで紹介されています。
これを拝見すると、健康保険のありがたさを痛感するとともに、「これだけの差があるなら、安い国に飛行機に乗って入院旅行をする選択肢もあるな。」と気が付きます。
一番高いジュネーブで約300万円。一番安い北京で20万円。その差額は、280万円。280万円あれば、北京に旅行して、手術を受けた後、一週間程度療養もかねて北京ダックを食べつつ、飽きたら、湖南省まで足を伸ばして、鸛雀楼に登って洞庭湖を眺め、詩を吟じてみてもおつりが来るのじゃないかしら。すなわち、医療の国際競争が起こりうる(いや、もしかしたら、既に始まっているのかも)と思うわけです。
ここから、さらに発展させると、保険治療を日本の国内の病院に限っている(のか、どうか知らないが)日本の健康保険は、ある意味で「非関税障壁」と非難された場合に、それが一応理屈になっていることが解ります。
- さいごに 旅をより楽しむために
- この本を読んで「旅に出たいな」と思った人のために、「いつ行くべきか」「どのような旅の形態をチョイスするのか」「誰といくべきか」「トラブルを避ける/対処する心構え」などが記されています。
前半は「Chikirinの日記」読者が喜びそうな「ものの見方」を提案する内容が多い一方、後半は、純粋に旅を楽しみたい人への案内となっている一冊です。
2013年 3月24日
No. 539
ーーーーー
お知らせ
当面、このブログは、僕のホームページ「受動態」の「だにぃの書庫」コーナーにアップロードした読書感想文をコピペしていきます。
と申しても、僕は、毎日一冊の本を読み終えるワケでもありません。よって、新たに感想文を書かない日は、過去に遡りながら、逆順にコピペして行きます。昨日アップロードした、ムーミンの本が540冊目の感想文でしたので、本日は、539冊目のちきりんさんの本の感想文でした。
ちなみに、ちきりんさんの本は、(ブログを全部読んでいるので当然ですが)出版されていることは存じ上げておりましたが、ホームページの更新を再開し始めた先月までのおおよそ二年間。そもそも本を読んでいなかったので、「これ以上「積ん読」本を増やすのはやめよう。」と思い、購入に至りませんでした。ところが、会社帰りに寄ったコンビニで見つけた本書「世界を歩いて考えよう」を衝動買いし、面白くて一気に読み終え、「じゃぁ、ホームページも更新しようかな。」と、重い腰を上げ、再び本屋さんに立ち寄るようになり、朝晩の通勤電車でも本を読み始めました。
ちきりんさんの本については、現在、第二冊めの「自分のアタマで考えよう」を読んでいるところです。第一冊の「ゆるく考えよう」はまだ書店で見つけられずに居ます。
「受動態」では、「同じ作家の本の感想文は、間に別の作家の本を3冊はさんでからにする。」と、目安を決めております。
そこで「自分のアタマで考えよう」の感想文は、あと、別の二冊の感想文を書いた後になります。
その二冊は、次の四冊から気分で選びます。
・ 山田邦子の「同窓会」←面白かったです。
・ 徳間書店の「中国の思想」シリーズの第一巻「韓非子」(西野広祥+市川宏訳)←韓非子を一冊で読むならこの本は最適だと思いました。
・ 酒井順子「その人、独身?」←負け犬の方々の特徴的なものの見方で書かれたエッセイだなぁ。と、感慨深いです。(まだ読み終えていません。)
悩みの種は「感想文を書くのに時間を掛けすぎていて、読み終えるのに追いつかない!」です。以前「目標:一冊の感想文を30分で書く!」と目標を設定してみたのですが、書き始めると、あれやこれや、調べたり、考えたりして、全く目標に到達できていません。
と、言うわけで、当面このブログ「受動態」は、so-netのホームページ「受動態」からのコピペで、お茶を濁していくことになると思いますが、気長にお付き合い頂ければ幸いです。
それでは、夜も更けましたので、この記事をアップロードしたら、僕はすぐに眠りにつきます。みなさま、ごきげんよう