受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 635 島はぼくらと / 辻村深月 著 を読みました。

島はぼくらと (講談社文庫)

島はぼくらと (講談社文庫)

 
瀬戸内海に浮かぶ島、冴島。朱里、衣花、源樹、新の四人は島の唯一の同級生。フェリーで本土の高校に通う彼らは卒業と同時に島を出る。ある日、四人は冴島に「幻の脚本」を探しにきたという見知らぬ青年に声をかけられる。淡い恋と友情、大人達の覚悟。旅立ちの日はもうすぐ。別れるときは笑顔でいよう。
  カバーの背表紙を転記  

とても面白い小説でした。

むろん「面白い」と言うのは「声を立てて笑える。」と言う意味ではなく「興味深く、小説世界に引き込まれた。」と言う意味です。

解説が完璧!

内容は、インタビューも交えた瀧井朝世(1970~)による文庫の解説が完璧です。僕が書き足すことはありません。
久しぶりに「スロウハイツの神様講談社文庫2010/1/15)
スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

 
スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)

スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)

 
を読み返したのですが、簡単には該当箇所に読みあたりませんでした。

大人が、くせ者ばかり(^_^;

印象に残ったのは、必ずしも大人が模範的ではないことです。
霧崎は捨てキャラとしても、村長や衣花の父親など、重要人物のけつの穴の小ささに唖然とします。
その模範的ではない大人に接して、主人公の高校生四人が、戦うわけでもなく、逃げるわけでもなく、自分たちを取り巻く環境の一部として、対処しているところが印象的でした。
そういえば、僕も「自分がやりたいことを実現するなら、大人と戦うのではなく、妥協しながら協力できることを探すのが良い。」と学んだのも高校生の時でした。ちゃんと言葉にできたのはフットルース1984年公開のアメリカ映画)
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を観たあとでしたけれども。

文才

出版されてから時間が経っているので、小ネタを書きます。
「文才」
が小説中3回語られます。
母子手帳
最初は、母子手帳に母親が綴る子どもへのメッセージについて。
本木氏
次は、本木氏のセリフ「僕には恐ろしく文才がないよ」
偽の「幻の脚本」を学業の成績が良かったであろう本木氏が別に書いて渡したのではないか。疑う新くんに対して本木氏が否定するとき。
新へ
最後は「文才」とは言わないのですが、
新が「君、才能あるよ。」と言われる場面。

母子手帳

最初の母子手帳の「文才」は実際には「文才」について述べているのではありません。
語彙が貧弱であるか、または修辞技法が身についていない状態を指しています。
つまり「才能」について述べているのではありません。
練習をしたことがあるか、訓練を受けているか。「技術」のお話です。
この小説の中では、子の成長を願う母親が綴る母子手帳への記述を「文才はないが、愛情がちゃんと伝わる」様子を示しています。
誤った「文才」の用語法で以て、なおかつ記した文章が的確に機能している様子を描写しています。

本木氏

二つめ。本木氏は高学歴。論文を書いているはずです。説明文を書く(専門用語の)語彙が充分にあり、修辞技法も身についていると思われます。そういう意味では、用語法として的確な「文才」の有無について述べています。
ただし、ウェブデザイナーの仕事の苦労も「文才の不足」で苦労している旨を述べているところを見ると、若干の混同があるようです。

新へ

三つめ。新が言われる「才能」は、さすがにプロが述べるとおり、的確な用語法で用いられています。

文才

この三つを並べて、音楽やスポーツなどとは異なり、誰でもが用いる「文章」についての、著者のメッセージが感じられるように思います。
むろん辻村深月はトップ・プロの小説家なのですが、
そうではない、市居の人が書く文章も(時に「オレは文才がないから」と、言い訳を付けながらでも)目的にあって、必要、充分に機能しているのですよ。
と励ましがあるように思いました。

高校生は、どのようにして大人になるのか

小説の主人公四人は、自分自信の個性を見極め、その個性を生かす形で、将来の職業を想定して進学していきます。
周囲の大人たちのだめなところ、良いところ、得意なことを充分に生かしている人、不本意に生きているように思えるところ。お手本として、高校生四人は、ちゃんと見て、学び、自分たちの将来を考えます。

後世への遺物

2016年1月のNHK Eテレ「100分de名著」内村鑑三「代表的日本人」
代表的日本人 (岩波文庫)

代表的日本人 (岩波文庫)

 
の指南役若松英輔は、番組中
NHK「100分de名著」ブックス 内村鑑三 代表的日本人―永遠の今を生きる者たち

NHK「100分de名著」ブックス 内村鑑三 代表的日本人―永遠の今を生きる者たち

 
で(内容を発展させて)内村鑑三「後世への最大遺物」
後世への最大遺物・デンマルク国の話 (岩波文庫)

後世への最大遺物・デンマルク国の話 (岩波文庫)

 
を解説しました。
 

「真摯に生きる」と言うことだけでも「その時、こんなふうに生きた人がいた。」と、後世の人たちへのありがたい遺物として機能することを説明しました。

この小説(島はぼくらと)に登場する大人たちは、あるいは、真摯に生き、島の高校生のお手本となり、または反面教師になります。
具体的に指導や手助けをしなくても、そこで懸命に生きているだけで、高校生たちの血となり、肉となっている様子が窺えました。
僕も夜更かしばかりしていないで、ちゃんと生きていこうと思いました。

小ネタ2

ちなみに、僕は文庫発売と同時に購入していたのですが、だいぶ長く「積ん読」していて、先に「青空と逃げる」中央公論新社2018/3/25)
青空と逃げる (単行本)

青空と逃げる (単行本)

 
を読んでいます。
ですので、登場人物が、ロードムービーである「青空と逃げる」の逃避行中の地方都市で活躍していることを知っている事の方が面白かったです。
2019年 8月18日
No. 635