受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 631 源氏物語を知っていますか / 阿刀田高 著 を読みました。

源氏物語を知っていますか (新潮文庫)

源氏物語を知っていますか (新潮文庫)

 
男女の愛欲と孤独。野心と諦観。縦横無尽に張り巡らされた伏線の糸。
平安貴族を熱中させた、極上華麗な大ベストセラー大河小説『源氏物語』五十四帖を、短編小説の名手・阿刀田高があなたのかわりに読みました。
大人のユーモアとエロス溢れる軽妙な語り口で、70年以上にわたる長大なストーリーと複雑に絡み合う人間関係が、すんなり頭に入ります。学生からシニアまで全国民必携の一冊。
  カバーの背表紙を転記  

イソップを知っていますか新潮文庫2012/6)

イソップを知っていますか (新潮文庫)

イソップを知っていますか (新潮文庫)

 

に続く「知っていますか」シリーズ第7段(ですが、古典シリーズという意味で言うと、もう数えきれませんっ(^_^;)

カバーの案内文の通り、読みやすいダイジェストです。
僕は「源氏物語」の原著も、現代語訳も全く読んだことがありません。ですが、この一冊を読み終えて、なんとなく、全体像を把握できたような気がしています。
読む前は
光源氏が主人公」
光源氏がたくさんの女性と恋愛をするお話。」
と、漠然としたものでした。
が、本書を読むと、その恋愛の性質も、物語として面白いものだと思いました。
新たな認識を簡単にまとめて述べます。
 
光源氏が主人公」
 は変わりありません。
「相手の出方を見極めながら、恋愛を進める、無理の無い光源氏の恋愛観が印象的。」
 強引な男も登場しますが、光源氏は、紳士的に女性をリードをします。
 このスタンスは、女性読者向けの恋愛物語です。
「微妙な親族との駆け引きが見どころ。」
「引き際(須磨に行くところ)が見事。」
光源氏没後も物語が続くのが面白い。」
と言ったところです。
 
一冊としては僕が読んだ新潮文庫は解説まで含めて670ページで長大ですが、
源氏物語の原作はもっと長いでしょうから、少しずつ時間を掛けて読んでも、この一冊はありがたいものでした。
たとえば、僕はヴィクトル・ユゴーの「レ・ミゼラブル」を全五巻の佐藤朔訳の新潮文庫
レ・ミゼラブル(一)(新潮文庫)

レ・ミゼラブル(一)(新潮文庫)

 
で全部読みました。が、途中の時事問題の解説や、歴史評価など、物語とは直接関係ない記述が長く(これを楽しみに読むつもりがなければ)ストーリーの要点だけを読みたい、と思いました。
ジャン・ヴァルジャンだけに注目してストーリーを組み立てると、おおよその物語が把握できると思います。ていうか、wikipediaの主要人物「ジャン・ヴァルジャン」の項目がほどよいダイジェストになっています。
延々と
「他の国の偉人は、フランス人にその同類を上げることができるが、我がナポレオンに限っては、他のどの国にも同類を上げることができない。」
と力説されるのは、
(そういう脇道が好きな人にとっては、これも含めて小説の魅力なのだろうとは思うのですが)
なくてもよいかも、と思いました。
本書「源氏物語を知っていますか」では衣装の趣味や、和歌の評価など、原著の魅力を省略する旨を記している箇所が所々にあります。この取捨選択こそが、読みやすいダイジェストであり、阿刀田高の魅力だ、と思いました。
時間があれば逐語訳にチャレンジしたいと思います。
2019年 4月22日
No. 631
ちなみに「増長な小説」の例として「レ・ミゼラブル」を挙げましたが、一生に一度は、この完訳(完訳なのか、どうかは存じ上げませんが)を読んでみても良いと思います。ユゴーは当時のフランスの人気作家です。小説好きの一般市民がこぞって読んだ小説ですし。
ちなみに「レ・ミゼラブル」の中で
「我がフランスのナポレオンだけは、その類型を他のどの国にも、どの時代にも見いだすことはできない。」
と長々と力説するのですが(日本人が読むと「豊臣秀吉がいるぜ。」と言いたくなるのですが(^0^))
レ・ミゼラブルが出版された時、ユゴーナポレオン三世の弾圧により亡命中。ベルギーからの出版です。そういう歴史的背景も念頭に置いて、一生に一度は読んでみるのもおつなもの。
 
その他にダイジェストとして(阿刀田高がまだ書いていないものでは)

馬琴の南総里見八犬伝ではこれがお勧め。

南総里見八犬伝 (21世紀によむ日本の古典 19)

南総里見八犬伝 (21世紀によむ日本の古典 19)

 

 僕は歯医者の待合室に置いてあったのを読みました。

聞くところによると原作の長大さは半端なく、現代において、全現代語訳にチャレンジした人が、ことごとく全うできず、志半ばで倒れたということです。

(原作を書いた馬琴も、すごいけれど、人気に応じて、最終章が長く、全体の半分って、どういうことですか?)

で、上記の僕が歯医者の待合室で読んだのは、子ども向けですが、一応最初と最後は原作に準じていて、八犬士が揃って大団円を迎えて、皆、それぞれ嫁をもらってめでたしめでたし。と言うのが良いじゃありませんか。

 

それにしても、世に楽しい小説が溢れている。しかも母国語で読めるものだけでもどっさりだ。

僕は、なんと豊かな世界に生きているのだろうか、

と春の期待感とともに、楽しい気分になった春たけなわの、大型連休直前の夜更けでございました。

 

そろそろ「毎日更新ネタ」が切れます。「読んで感想を書いていない本」が、もうありません。2019年4月28日で一旦お休みに入り、あとは読み終える度に(遡って昔書いた感想文を一冊文ずつ添えて)更新していきます。

 

皆様も、良い春をお迎えのことと存じます。今年も愉快に過ごしてまいりましょうぞ。