受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 610 後世への最大遺物・デンマルク国の話/ 内村鑑三 著 を読みました。

後世への最大遺物・デンマルク国の話 (岩波文庫)

後世への最大遺物・デンマルク国の話 (岩波文庫)

 
普通の人間にとって実践可能な人生の心の生き方とは何か。我々は後世に何を遺してゆけるのか。明治27年夏期学校における講演「後世への最大遺物」は、人生最大のこの根本問題について熱っぽく語りかける。《我々は何をこの世に遺して逝こうか。金か、事業か、思想か。……何人にも遺し得る最大遺物  それは勇ましい高尚なる生涯である》。(解説=鈴木範久)
  カバー表紙を転記  
amazonに投稿したレビュー
を転記します。

切っ掛け

NHK Eテレ(教育テレビ)「100分de名著」2016年1月の内村鑑三「代表的日本人」が切っ掛けです。

番組中で、当作品(後世への最大遺物)の内容を紹介していたのを拝聴し興味を持ちました。
ちなみに「代表的日本人」は、英語の著作「Representative Men of Japan / Japan and the Japanese」(1908 Tokyo : Keiseisha)です。
Representative Men of Japan (English Edition)

Representative Men of Japan (English Edition)

 
なんと、カリフォルニア大学図書館所蔵の本がウェブで拝読できます。
Representative men of Japan; essays by Uchimura, Kanzo, 1861-1930

archive.org

和訳は
鈴木範久による岩波文庫(1995/7/17)
代表的日本人 (岩波文庫)

代表的日本人 (岩波文庫)

 
などがあります。
 
気になっていたところで、日経ビジネス電子版

business.nikkei.com

のオンラインゼミナール「ニュースを斬る」インタビュー記事

100万部!『君たちはどう生きるか』旋風のワケ
漫画家・羽賀翔一氏に聞く試行錯誤と葛藤

business.nikkei.com

を読みました。
執筆にあたり編集者から当作品(後世への最大遺物)を紹介され読んだことが助けになった、という内容の(僕の理解です)コメントをしていました。
「僕も是非読まねば」と思いました。

どうせ、この世に生まれてきたのならば、何かをのこしてから死んでいきたいじゃないですか。

では、何を遺そうか。
と言う問いに答えている本です。

キリスト教サマースクールでの講演記録です。

キリスト教信者の若者向けサマースクールでの講義です。
キリスト教信者への講義なのですが、冒頭のはしがきで著者が述べているとおり
「一般の人生問題を論究」しています。
キリスト教への勧誘ではありません。
 
本書後半の「デンマルク国の話」で、代表的デンマーク人として紹介されているキェルケゴール
代表作
死に至る病(僕が読んだのは、斎藤信治訳の岩波文庫1957/1/1)
死に至る病 (岩波文庫)

死に至る病 (岩波文庫)

 
は一貫して「良きキリスト教信者とはどのような人なのか」と言う論法で哲学を論じています。
キリスト教信者ではない僕には、とても読みづらかったです。
ですので、本書も警戒して読み始めました。
 
杞憂でした。
「序」で述べられているとおり、
キリスト教信者で無くても、気安く読み進むことができました。
ざっくばらんで親しみが持て、楽しい読書でした。
おそらく、サマースクールの他の講演者は内村鑑三とは異なり、
拳を握りしめ、汗をまき散らしながら、
「いかに戦うか。」
「いかに神に捧げるか」
などと熱弁を振るったのでしょう。
冒頭で
キリスト教の演説会で演者が腰を掛けて話をするのは、たぶんこの講師が嚆矢であるかも知れない」
と笑いをとっているように(念のため解説すると「講師[こうし]」と「嚆矢[こうし]」を掛けただじゃれです。)、気軽な感じで受講できるように配慮しているようです。

後世に何ものこすことができない、と、むなしさを覚えたときに読む本

僕自身を振り返ると、若い頃は
「何か大きなことを成し遂げて、世界に名を残して死にたい。」
と思っていました。
これができないとわかると
「享楽的に楽しい人生を送りたい。」
と、馬鹿なことを考えるようになりました。
さらに年をとると
「金を積めば楽しめるような娯楽に興じる人生は、じつは自分は求めていない。」
と気がつきました。
趣味で生物学(特に進化論)の本を沢山読んだ僕は
「結婚して、子供をわんさかこさえて、子育てに追われる人生」
ならば、それは(苦労が多いかも知れないが)幸せな人生だ。と思いました。が、ついに子供も作らず。
何のために生きているんだか解らず、時々
「なんだか無駄に生きてるな。」
とむなしくなっていました。

そんなときにタイミング良く、この本の内容に触れたテレビ番組や雑誌記事で知ったわけです。

内村鑑三の考察では

「金があれば」
「事業が興せるなら」
「作家になれるのであれば」
と後世への最大遺物の遺し方を考察した後
「それらよりも優れた後世への最大遺物とは何か」
と、結論を述べます。
膝を打つことしきりでした。
 
本書は古い本ですが、気楽な話し言葉で読みやすく、具体的な例を上げたり、たとえ話として良い例、悪い例を沢山あげてます。
本も薄く(後世への最大遺物は11ページから75ページまでしかありません)気軽に読めます。(僕は時間を掛けて読みましたが)

デンマルク国の話も面白いです。

戦争に負けて、領土を削られ、荒野しか残っていなかったデンマークがいかに繁栄を勝ち取ったかを語っています。
今ならば経済学の大きな成果である「比較優位の概念」で説明するところだと思うのですが、
本書収録の講演では内村鑑三は難しい理論は用いずに、
「外に失いしところを内において取り返すことができるだろう」
と言ったデンマーク人の有言実行の様子を紹介しています。
 
末尾に、親切で丁寧、優しく詳しく書かれた解説もあり、理解の大いなる助けになります。
特に、内村鑑三が、後世への最大遺物の講演をした背景や、デンマーク復興物語の元ネタを得た経緯などが面白かったです。
2018年 3月10日
No. 610

若松英輔による解説

この本を読もうと思った動機は、上記「100分de名著」番組での若松英輔[わかまつ・えいすけ]1968~(同い年だよ(・o・)>俺)の解説です。
(僕の理解ですが)たとえ、誰の記憶にも残らない人生になったとしても、その人が生きた時代の一部として、その人の人生は、その時代の歴史の構成要素になる。
つまらない人生であったとしても、平成の一般市民の生き方の一つとして、平成の時代を作ったのだ。
この若松栄輔の解説に勇気を得て本書を入手し、読みました。
読んでみると、内村鑑三は、そこまで(何にもしなかった人でも、後世への最大遺物を遺す)とは言ってません。
末尾に近いところで二宮尊徳を引き合いに出し
「彼の事業自体は全国規模ではないけれど、彼の努力を聞いた人に与える勇気は後世への最大遺物だ。」
だから、わずかなことでも
「弱い者の味方になって、一緒に戦って見ろ。」
と言う意味のことを述べている程度です。
 
つまり、僕がこの本に期待した最も読みたかったことは、この本を紹介した若松栄輔の理解であり、彼の解説だったのです。
しかしながら、僕のむなしさは、この本で癒やされ、なんとか生きていこうと思う勇気がわきました。
 
なるほど、読書、および読書の披露は、こういうこともできるのだ、
と若松栄輔の後世への(僕への)最大遺物(って、若松栄輔は元気にご存命ですが)を僕は手に入れました。
なお、この番組のテキストは、NHK「100分de名著」ブックスとして、出版されています。
内村鑑三 代表的日本人 永遠の今を生きる者たち」2017/10/21(単行本・ソフトカバー)
NHK「100分de名著」ブックス 内村鑑三 代表的日本人―永遠の今を生きる者たち

NHK「100分de名著」ブックス 内村鑑三 代表的日本人―永遠の今を生きる者たち

 
講演録『後世への最大遺物』にも触れながら、生きがいなき現代を生きる意味を提示し、迷える魂を救済する一冊。
と言うことです。
2019年 3月18日

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