受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 608 遠野物語 / 柳田国男 著 を読みました。

遠野物語―付・遠野物語拾遺 (角川ソフィア文庫)

遠野物語―付・遠野物語拾遺 (角川ソフィア文庫)

 
岩手県遠野は、山に囲まれた隔絶の小天地で、民間伝承の宝庫であった。日本民俗学を開眼させた『遠野物語』は、この遠野郷に伝わる山神楽、河童、天狗倒しなどの伝説や怪異憚、さらに日本狼の目撃譚や死者の弔い方など、日本の自然誌を今に伝える貴重な記録であり、優れた文学作品でもある。読みやすい新漢字で日本の原風景を描く物語を収録。年譜、索引、遠野郷地図付き。
   カバーの背表紙を転記  
柳田國男(1875~1962、民俗学者、官僚)の代表作。日本の民俗学の先駆けとなる作品。
僕が読んだのは角川学芸出版角川ソフィア文庫新版遠野物語付・遠野物語拾遺です。
amazonに投稿したレビュー
を転記します。

多数の二次創作を生みました

子どものころから座敷わらしや山姥など、この遠野物語で語られる民間伝承を元にした創作物に触れる機会がたびたびありました。
たとえば、劇団四季NHK夏休み子どもミュージカル「ユタと不思議な仲間たち1977/8/20、NHKホール(東京都渋谷区神南)
当時は小田急線沿線在住でした。代々木八幡で降り、母親と兄弟とともにNHKホールまで歩いて行きました。
ストーリーはおぼろげですが、雪国の毛皮をまとった子どもたち(座敷わらし含)が大きな木の家で動き回るのが面白かった記憶があります。
調べたところ、青森県八戸市出身の芥川龍之介賞(1960年下半期)作家三浦哲郎(1931~2010)の1971年の作品
ユタとふしぎな仲間たち (新潮文庫)

ユタとふしぎな仲間たち (新潮文庫)

 
を1974年にNHKがテレビドラマ化。
これをミュージカル化したもののようです。
ですから、柳田国男の「遠野物語」とは直接関係はないようですが、
大人になった今、元となった本をちゃんと読んでみたい、と思い購入しました。

民俗学のはじまり

実際に読んでみると、座敷わらしや天狗を紹介しただけの本ではなくて、かの地で伝えられているお話をくまなく聴いて記したものでした。
 
「迷信でしょ。」
と、おそらく当時も避けて通るところを、
聴いたそのまま記したのが「遠野物語」であり
そのまま記すところに価値があるのだ、と、理解しました。
 
また、この本が端緒となり、民俗学が成立したこともうなずくことができました。

生活の知恵としての民話

端的に感じたのは「昔の人」に分類された第八段の冒頭です。
黄昏に女や子供の家の外に出てゐる者はよく神隠しにあふことは他の国々と同じ。
これを読むと「神隠し」と郷の人が言っているのは誘拐のことだと理解出来ます。
しかしながら、犯罪として捜査するのではなく「神隠し」として対処、諦めていたのだと解ります。
プロの誘拐魔が女や子供をさらっていくのですから、
おそらくは郷の人が捜査しても太刀打ちできるものではなく、ならば「神隠し」として諦めるのが生活の知恵だったのかな。と推測しました。

河童や里の神様と遊ぶ子ども

他には、河童が他で語られるのと、遠野郷とのでは少し違うことを記した五九段も面白かったです。

面白かったと言えば、特に面白かったのは、
里の神「カクラサマ」に分類されている七〇段と
遠野物語拾遺「子供神」五一~五六です。
子供がご神体をおもちゃにするお話です。
五一を抜粋します。
近所の子供らが持ち出して、前阪で投げ転ばしたり、また橇にして乗ったりして遊んでいたのを、別当殿が出て行ってとがめると、すぐその晩から別当殿が病んだ。巫女に聞いてみたところが、せっかく観音様が子供らと面白く遊んでいたのを、お節介をしたのがお気にさわった
他のお話でも、叱った大人が逆に病気になったりけがをしたり、神様の罰が当たります。
さすがに、現代の子供はこんなことはしないと思いますが、
たとえ、子供が祠から木造のご神体を持ち出し、水たまりに放り込んで
「戦艦だ!突撃だ!」
と乗って漕いで、遊んでいても、遠野郷では叱ってはならないのでしょう。

地域の歴史の伝承

その他、
盛岡市に旅行すると「前九年」と電信柱に町名が書いてあるのを見つけて「へぇ」と思ったのですが、
前九年前九年の役:1051~1062、陸奥国、現岩手県付近)や後三年後三年の役:1083~1087、奥羽地方の戦いから地名の由来を語る段、
例えば遠野物語拾遺の七。現在の遠野市小友町での八幡太郎源義家:1039~1106)安倍貞任(1019~1062)の矢の射合い
も、その土地で語られている歴史に思い馳せました。

生活の知恵

また、
蛇を殺してはならない
などのいましめ。
 
山で迷って古民家を見つけたらそこにあるモノは神様からの贈り物だ
などの言い伝え
 
拾遺の最後は年中行事を
「他とおおよそ同じ」
としながらも、農閑期の家にこもりがちな時期に行事が多く配置しているのが
興味深い、
と感じられる内容でした。

やはり、こういう本は、一度おおもとを読むと良いな。読んで良かったな。と思いました。
2018年 2月11日
No. 608